勇者様には許される
ヴィルヘルムは勇者である。
いくら元が粗野で最低な人格だとしても、自分が何をすれば一番利益を得られるのか。
その損得勘定は出来る人間であった。
この場合、ヴィルヘルムが選ぶのは魔王討伐までの間、様々な場所で好き勝手に暴れ、女たちを弄ぶことであった。
ヴィルヘルムは好色であった。
英雄、色を好むという言葉のままに、女たちを襲う暴漢だ。
元よりそんな気質の人間に勇者という権力を与えてしまったらどうなるか。
そんなものは、火を見るよりも明らかであった。
出立から三日。
ヴィルヘルムは立ち寄った村で女たちを食い散らかした。
逆らった男たちは全員、聖剣の餌食となった。
「死体は燃やしといてやる。土葬よりも楽でいいだろ」
そんなことを嘯いて、炎の魔法で消滅させる。
絵物語に描かれる勇者の姿とは真逆の、もはや想像し得る魔王の所業だった。
早く出ていってくれ。
残された、殺されなかった村人たちの総意だった。
逆らうことは死を意味する。
村娘たちには可哀想なことをしてしまったが、死んでしまってはどうしようもない。
だから穏便に、どうかこのまま出ていってくれますように。
そんな大人たちの悲痛と諦念の願いを汲み取れるほど、その少年は大人ではなかった。
「魔王ぉぉぉっ!」
村の貴重な食料を貪り食っていた満足げに歩いていたヴィルヘルムの前に、少年は立った。
一振りのナイフを握っている。その手は、震えていた。
「魔王? 俺のことか?」
「ユーシカ!? やめなさい!」
村の大人たちが青ざめる。
少年の命とともに、己へ勇者の敵意が向かうかもしれない恐怖。
「ミシュお姉ちゃんはさっき死んだ! 首を吊ってた!」
「ミシュ……? 誰だ?」
「……ぇが! お前が昨日犯した僕のお姉ちゃんだ!」
「へえ、そうだったのか。良い女か?」
少年の激昂も、ヴィルヘルムはどこ吹く風だった。
昨晩犯した女たちのことを思い出し、どれだったか記憶を巡らせる。
だがわからない。その場その時の女の身体以外に興味はないのだ。
「お姉ちゃんはもうすぐ結婚するはずだった! お前が殺したノクサ兄とだ!」
「ノクサ……?」
こんな人間性だ。
殺した男のことなんて、ますます興味がない。
「お前は勇者なんかじゃない! 魔王だ! 悪魔だ! 死んじまえぇっ!」
「ほぉ?」
少年──ユーシカはナイフを構えてヴィルヘルムに突進する。
子どもながらに、明確な殺意を持った攻撃だった。
「良い攻撃だ。ヨボヨボで死にぞこないのジジイぐらいなら殺せたんじゃないか」
「なっ……!?」
ユーシカの渾身の一撃を、ヴィルヘルムは2本の指で受け止めていた。
ナイフの切っ先は人差し指と中指で挟まれ、ユーシカは身動きが取れない。
「いいかガキ。俺は勇者だ。だから、何をしてもいいんだよ」
そう言って、ヴィルヘルムはゾッとするような笑みを浮かべるのだった。




