勇者の資質
軍団長レイリアを慕い、そして愛したコークスは勇者として相応しい力を備えていた。
悪鬼ヴィルヘルムを討ち取り、晴れて真の勇者としてコークスは聖剣を繰り、魔王討伐へと向かうのであった。
──そんな、子どもの夢想じみた輝かしい道は、コークスには用意されていなかった。
「残念。お前じゃ無理だよ」
「ぐっ、あぁああああっ!?」
コークスの両腕が斬り飛ばされ、聖剣はヴィルヘルムの手に握られていた。
さらに聖剣が振るわれ、コークスの首が飛ぶ。
「かっ……」
そして宙に舞ったコークスの首が落ちてきたのを、ヴィルヘルムが元々持っていた剣で突き刺し、自らの顔の前に持ってくる。
「聖剣を扱うのに気合を入れているようじゃまだまだ。少し重いって感じただろう? 凡人はそうらしい。俺にとっては、羽よりも軽いのにな」
「……ッ……ッ……」
コークスが何かを喋ろうとするが、口からは血しか出てこない。
「ははは、汚ねぇ」
そんなコークスが刺さった剣を、ヴィルヘルムはあっさりと捨てた。
コークスの背後に立って、次は自分だと意気込んでいたはずの兵士や騎士たちは、圧倒的な実力差にようやく気づいて、顔を青ざめさせていた。
「うん。やっぱりよく馴染む。こいつぁ俺専用って感じだ。お前ら、ちょうどいい。試し切りさせろ。魔王を倒す前のウォーミングアップだ」
「ふ、ふざけっ……!?」
切っ先を向けられた騎士が激昂した次の瞬間だった。
騎士の目の前にヴィルヘルムがいて、聖剣はすでに“振り下ろされた”あとだった。
「か、かっ……ふ……」
騎士の胴体が斜めに斬り落とされる。
「俺を殺したいって思ってた連中の顔はよぉく覚えてる。全員相手になれ」
そのあとは、虐殺だった。
勇者をヴィルヘルムからコークスへ。
そう考えていた騎士と兵士が血溜まりの中に沈んでいる。
場にいた貴族や重鎮、文官の何人かはあまりの惨状に腰を抜かしていた。
小便を漏らしているものもいる。
「教王」
「なっ、なんだ……!」
教王の声が裏返っていた。
勇者は笑みを浮かべ、最後に殺した兵士の背中に聖剣を突き立てる。
「早めに出てやってもいい。だから約束しろ。生涯の衣食住と日替わりで女を用意だ。俺が死ぬまで一生涯だ」
「……わ、わかった……」
「ああ、もし約束を破ったら、お前ら全員……」
勇者は言いながら、文官のひとりに指を突きつける。
瞬間、文官の頭が吹き飛んだ。
「ひぃっ!?」「な、なんだっ!?」「なんでっ!?」
「お前ら全員の頭に今、吹っ飛んだヤツと同じ魔法を植え付けた。俺が死んだら作動する魔法だ。勇者ってのはいいな。こんな便利な魔法も使えるようになる」
「ま、待て! 貴様が死んだらとは」
「ああ、安心しろ。俺が老衰で死んだら解除されるようになってる。くくく、信じるかどうかはどうでもいいが、信じておいたほうがいいぜ」
「くっ……ぐ……」
聖教国は約束を反故しない。
だが約束を交わす相手が“不慮の事故”で死んでしまったら?
そのときは約束自体がなくなる。
そんなことを裏で繰り返してきた国だ。
ヴィルヘルムに仕掛けられた爆弾に、全員、何も言えなくなった。
魔王を倒せたら国としての名誉の代わりに生涯の衣食住と日替わりでの女性をあてがう。
衣食住はまだしも、女性だ。そんなことができるはずもない。必ずどこかで破綻が来る。
だが、それでもやるしかない。必ずやらせる気だ。
「じゃあ行ってくるぜ。あーあ、勇者様は辛いぜ。帰ってきたらしっかり労ってもらわないとな」
労うという言葉をわざと使って、勇者ヴィルヘルムは部屋から出ていった。
残された教王たちは頭を抱える。
勇者が魔王と相打ちになるのがベストだった。
しかし、そうなったら自分たちの頭は……。
勇者ヴィルヘルムは最強であり、災厄でさえあった。
「教王、どうされます……」
「どうもこうもない。なんとかするしかない」
これまで魑魅魍魎うずまく国でのし上がってきた教王も、こればかり嘆息するしかなかった。




