聖剣を繰るもの
各国には勇者が現れ、確定するのは数カ月後と告知してあった。
神からのお告げであると。
しかし実のところ、勇者は見つかっていたのだ。
その恐ろしき、そして神聖な力が最大で発揮されるのが今から半月後。
というだけだ。
「なんだよ。これから女たちと楽しむところだったのに。くだらねぇ用事だったらぶっ殺すぞジジイども」
「貴様……!」
「抑えろ、宰相」
「しかし……!」
「宰相」
二度言えば、宰相はわかる。
教王は下がった宰相から、今代の勇者へと目を移す。
「勇者よ、少しばかり時期が早まった。お主には今すぐ魔王討伐の旅に出てもらいたい」
「なんでだ? 理由を言え」
「…………」
今代の勇者ヴィルヘルムは野卑である。
勇者となる前から、粗暴で人格は最悪。
もっと最悪なことは、そんな人間が勇者としての資質を持っていたことだが。
それはそれとして、粗暴だが頭が悪いわけではない。
予定や時期を重んじる聖教国の上層部が事を早める理由。
それを聞かずに出立するほど彼は愚かではなかった。
「我が軍の精鋭たちが魔王直下であるSSS級冒険者、極拳のギールに全滅させられた」
「精鋭……ああ、あの生意気な女か。死んだのか」
「死んだ」
「そうか。一発ヤっときゃよかったな。自分が最強だとか生意気だったが、ツラと身体は良かった」
場の空気に怒りが孕む。
軍団長であるレイリアを慕うものは多い。
いくら勇者といえど、王やその側近でもない謂わば元は平民であるヴィルヘルムに、彼女への侮辱は許されない。
「王よ。彼に聖剣を託すのは待ってください」
前に出たのは副軍団長のひとりであるコークスだった。
顔には怒りが浮かんでいる。
彼に続く他の兵士や騎士たちも同じだった。
「国軍の名誉挽回は国軍にさせてください。このような資質だけの愚者を使う必要はありません」
「なんだぁ? 俺に喧嘩売ってんのか? ははは、買った」
「待て、待て貴様ら」
「いーや、待たないね。おい、軍団長よりも弱い分際で俺にケチをつけるそこの雑魚騎士。お前の実力を見せてみろよ」
勇者がスラリと剣を抜く。
ほとんど手入れもされていない、錆びた剣だった。
その剣が吸ったのは魔物ではなく人の血だ。
あまりの禍々しさに、文官たちが喉の奥で悲鳴を漏らす。
「教王。私が必ず勇者となって聖剣を操ってみせます。なので、この男を今ここで殺させてください」
「そんなこと出来るはずが」
教王がすべて言い終わらないうちに、コークスは背後の兵士から剣を受け取った。
それは聖剣『グラーム』だった。
「なっ?! コークス貴様! 聖剣を!?」
「これを操り、この悪鬼を殺せば、私が勇者です」
コークスは聖剣を構え、ヴィルヘルムと向き合った。
相手は勇者の資質ありとされ、確定された男。
だが、魔王を倒すために最も重要な資質は、聖剣を操れること。
コークスは聖剣を持つことが出来る。
そして、目の前の悪鬼を斬ることが出来る。
(やはり……聖剣は確かに重い。だが、それだけだ。私でも操れる)
コークスは振り上げた剣を背中に回し、地面を蹴り抜いてヴィルヘルムに突進する。
肉迫する。振り下ろした聖剣がヴィルヘルムに届く。




