魔王とは
魔王とは、世界を円滑に循環させるためのシステムみたいなものである。
魔王が生まれ、世界を高濃度の魔素に染め上げ、勇者によって散らされる。
その期間はまちまちだが、大概は一年ほどで魔王は“収穫”される。
魔王が生まれ、勇者が生まれ、そして、短い生を終える。
高濃度の魔素は人々によって消費される。魔法という形で。
都市を運営するために欠かせない力が魔素なのだ。
魔素によって生まれる魔物たちは人々の食にもなり、被服にも、建物にもなる。
魔王は最強である。
だが、必ず刈り取られる。
「全部のダンジョンが攻略されたか」
魔王エンリケが言った。
「はい。そのようでございます」
牛頭が応える。
「魔王様の出現と同じく、攻略も速いようで」
馬頭が言う。
「そうでなくてはな。あの男はいるんだろう?」
「あの男? 勇者でございますか?」
「違う。我の一撃で死ななかった稀有な強者よ」
「なるほど。もちろんヤツも。ギガンテスを単独で攻略したようです」
魔王の目が見開かれる。
口元には、笑み。
「ふふふ、そうではなくては。それぐらいはできて当然だ。ふははは!」
「嬉しそうですね、魔王様」
「当たり前だ。これが喜ばずにいられるか。このどうしようもなく、ただ消費されるだけの運命で出会ったのだ。我と本気の戦いが出来るものを」
魔王は勇者によって殺される。
歴代の魔王に、魔王としての記憶はない。
受け継がれるものではない。
ただ漠然と、おぼろげながら自分が、自分“たち”がどうなるのかだけを知っている。
魔王は殺す。
多くの民を殺し、破壊し、奪い取る。
だがそれは、死ぬ間際の無駄なあがきのようなものだ。
裡にある破壊衝動。
それをただ満たすためだけに生まれ、勇者と戦い敗れる運命。
はるか昔、その衝動に抗った魔王もいた。
そいつは誰も殺さなかった。何も壊さなかった。何も奪わなかった。
それでもただ魔王というだけで、勇者に討ち取られた。
対話を望んだが、最期は舌の垂れた首を掲げた姿を民衆に晒され、石を投げられた。
魔王エンリケは、この破壊衝動に抗うつもりはない。
ただ、どこかで虚しさだけは感じていた。
勇者に殺されるため、魔素を供給するための存在。
己の存在意義に疑問を抱くも、運命は変えられない。
つまらない生だ。
己の運命をおぼろげながら理解したとき、魔王は己の生を卑下して笑った。
だが、それから数日後。
暇つぶしに襲った街で、出会ってしまったのだ。
勇者以外には倒せるはずがない最凶最悪の存在、魔王の一撃を受けて死なない男に。
勇者様が倒してくださるまで、怯えるだけの世界。
そう決められた“そういうもの”に現れたイレギュラーの存在。
高揚した。
何かが起こっていると感じた。
こいつと、命ある限り戦いたい。
本気で、全力で。
魔王は魔王城以外で戦うときには弱体化される。
勇者以外に殺されることはないし、まず負けることはない。
だが、それでも弱体してしまう。
それが理だ。
そして力を振るう本人が一番それを痛感する。
本気ではない、と。
だから魔王は待たなくてはいけない。
あの男が魔王城へやってくるのを。
「少し出てくる」
「また魔物殺しですか?」
「人族の強者は育つのに時間がかかる。だが魔物や魔獣ならあっという間だ」
魔王は嘯き、城を出る。
この高揚を、興奮を鎮めるために各地を荒らす魔物を殺す。
どうせ発散される強力な魔素で、魔物たちはすぐに復活するのだ。
目的の場所へ向かいながら魔王はブルッと震えた。
早くこの昂りを止めなくては。
でないと理を捻じ曲げてでも、リクド・アルスベールを殺したくなる。




