遠く離れてもまだ巨大
ギガンテス。
それは伝説上の魔物だった。
魔王が復活するとき、魔王を支える魔物も蘇る。
とある古文書に記された文言だった。
その膂力は大地を割り、海に潜む己の身の丈を超える鯨を片手で掴み振り回すほど。
数多の猛者を屠り、単純な力だけならば魔王に匹敵するとも言われている。
震え上がる。
巨大で、その一撃一撃がおそらく掠っただけでも致命傷。
こんなものを相手にする。
考えるだけで恐ろしい。もはや神話の世界だ。
だが、リクドは腕組をして立っていた。
ギガンテスを前にして、恐怖も気負いもなく、ただいつものように立っている。
「オォォォォォ!」
ギガンテスが歩みを進めると、首と四肢を拘束する鎖がビンッと張った。
だが世界が鳴動したような咆哮をあげたギガンテスの力で、左腕、右足、右腕、左足、首の順で鎖が引き千切られる。
クラッドは、扉の内側で巨大な何かがドチャリと落ちるのを見た。
(あれは……)
それは四肢と首がもげた人型の何かだった。
筋肉が発達した四肢。そして精悍な顔立ちの頭部。
ギガンテスよりもさらに巨大。
それは神話に登場する神の姿に似ていた。
天の看守、ロビス。
何人たりとも逃すことのない、最強最堅と呼ばれた神。
その神が今、無惨な姿で転がっていた。
同時に扉が閉まる。
扉は瞬時に消え失せ、青空が広がっていたダンジョン内が薄暗くなっていく。
「始めよう、小さく儚き者よ」
喋った。
ギガンテスの声だ。
声が圧となって上から降ってくる。
たぶん、叫べばそれだけで数多の生物を殺せる。
それほどまでの規格外。恐ろしい魔物。
「倒せるのか! リクド」
クラッドが声を張り上げる。
それに対しリクドは、ギガンテスを見上げたまま頷いた。
「問題ない。ただ、悪い。自分の身は守ってくれ」
「り、了解だ!」
クラッドは言って、その場を即座に離れる。
即断即行動。これは冒険者が長生きするためのコツのひとつだ。
リクドが負けて死ねば、クラッドは勝てる気もしない。
すたこらとその場から逃げる。
あの巨体だ。
どうせどこでも戦闘は見られる。
「絶対勝てよー!」
言って、クラッドは走る。
口元には笑みを浮かんでいた。
「いやぁ、おかしくなっちまったな。俺も。あんなのどうやっても勝てないはずなのに、はは、リクドなら勝てるだろうって思っちまうんだよな」
走る。走る。
リクドは小さくなっていくのに、ギガンテスはまだまだ巨大なままだった。




