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その男を評価する軸がない

 リクド・アルスベールという人間を、どう評価したらいいものか。

 クラッドは、目の前で魔物たちを屠る、自分と同じS級冒険者の男を見て思った。


 強すぎる。

 人としての域を軽く超えているように思う。

 何をどう鍛錬すれば、あの領域にたどり着けるのか。


 腕を振るえば、目の前の魔物の頭が消し飛ぶ。

 恐ろしいほどの跳躍力は空を駆ける翼竜にさえ届いた。

 瞬きすれば、次の瞬間には見失っている。


 そしてさらにこちらの肝を底冷えさせるのは、これがまだ本気ではないだろうということ。


 相手はS級、SS級さえ飲み込む力を持つはずの魔物たち。

 魔獣くずれもいる。

 本来であれば、一対一で勝てるはずもない。

 S級という位では。


 だが、リクドは勝つ。

 それもとてつもない力で。

 こちらにもわかるほどの、余裕で。


 こいつなら勇者じゃなくても魔王を倒せるのではないかと思わせる。

 そういう強さだった。

 むしろ、勇者がこいつよりも強いイメージが湧かない。


 実際、勇者がこいつより強いとするならば、この強さの人間がふたりもいることになる。

 そうなれば、本人たちにやる気があれば国を落とすことも可能じゃないか。


 クラッドは、そんなことも考えてしまう。


「よし! 第二階層攻略!」


 声にハッとすると、リクドの目の前にいた翼の生えた獅子が消失し、巨大な扉が出現するところだった。


「行くぞ、クラッド」

「ああ、わかった」


 第一に続いて第二階層もあっさりと突破。

 このような男がこれまでずっと無名だった。

 あり得ない。


 こいつはどうして、ここまで“誰にも知られずに”強くなることが出来たんだ。


 ☓  ☓  ☓


「ここで最後だよな? クラッド」

「ああ、3階層すべての魔物を全滅させる。それがダンジョンマスターの部屋に行く条件だ」

「よっしゃ! やるぞ!」


 言うが早いか、リクドが駆け出す。

 すると地面から次々と敵が湧き出した。


「巨人族系か……!」


 身の丈3メートル近くの魔物たちが立ち塞がる。

 それぞれの手には棍棒や錆びた剣などが握られていた。

 デカい。ただそれだけで強い。

 しかも筋骨隆々としている。弱いはずがない。


「くっ……!?」


 巨人族のトロールが棍棒を振り下ろすと、地面が抉れた。

 土や小石が礫となって襲いかかってくる。

 クラッドは横に跳んで避け、木の陰に隠れた。


「リクド! 無事か!」

「ああ、問題ない」


 なかなかのダメージを食らいそうだからクラッドは避けた。

 だが、直前のリクドに避ける仕草は見えなかった。


「……ああ、じゃあ安心だ」


 クラッドは木から顔を出す。

 すると、リクドがトロールの顔に拳をめり込ませているところだった。


 一撃ずつ。

 ここにもリクドを止められる魔物はいなかった。


 ダンジョンの魔物たちに怯えるという気持ちはない。

 リクドに向かって突進していく。目の前で頭が吹き飛んでも、侵入者を殺すために進み続ける。


「……蹂躙だな」


 巨人族に比べればリクドは小さい。

 だが、踏み潰しているのはリクドのほうだった。

 殴る。蹴る。

 蹴る。殴る。投げ捨てる。

 引きちぎる。蹴る。殴る。殴る。


「……すげぇ。本当に何者なんだ、お前さんは……」


 数分か、十数分か。

 とにかく、巨人族の魔物100匹を相手にして、たったそれだけの時間でリクドは片をつけた。

 1匹が街ひとつを落とす力を持っているというのに、こんな芸当SSS級でも出来るかどうか。


 リクドが血煙の中心に立っていた。

 何かを待つようにやや上方を見つめている。


「りく……」


 いつまでも隠れてるわけにはいかないから声をかけようとした。

 そのときだった。


「来るぞ」


 リクドが言った直後、地面が揺れた。

 そして階層を下るときの扉よりも、さらに大きな扉が現れた。


 扉が開く。

 そして、中から出てきたのは──。


「……ギガンテス!?」


 青い肌をした巨大な魔物だった。70メートルはある。

 凶悪そうな顔を左右に向け、それから眼下にいるリクドに気づいてニタっと笑う。

 手に持った棍棒も50メートルはありそうだった。


 首と手足に錠をかけられた巨人族の王。


 ギガンテスは錠に繋がる鎖を引きずりながら、3階層に顕現するのであった。


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