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思い知るには遅すぎた

「う、あ、あ……」


 レイリアはこのとき初めて、目の前の男が化け物だと思い知った。

 今の今まで、レイリアは本当に自分は最強だと思っていたのだ。


 圧倒的ではない。

 けれども、SSS級冒険者には負けない。


 部下たちだってそうだ。

 団結すれば、いつもの連携を見せれば極拳会なんて馬鹿らしい組織の連中も圧倒する。


 そのはずだった。


 しかし、周りを見て初めて気づく。

 もう仲間はいない。みんな死んでいる。


 残っているのは、レイリアとギールだけ。


「こ、こんなことに何の意味がある! 全員死んでいる! 私の仲間も、貴様の仲間も!」

「尊い」


「……は?」

「素手で挑み、武器を持った連中を叩きのめす。尊い戦いだ」


 ゆらりと、これまで前進しなかったギールが足を一歩踏み出す。


「ひっ……!?」


 レイリアは自分の喉奥から漏れた悲鳴が信じられなかった。

 恐怖している。この最強と呼ばれた女戦士が。国の最高戦力であるレイリアが。


「もう武器はないぞ。素手だ。素手で来い。徒手格闘も凄腕だというのは調べてある」

「う、あ……」


 恐怖で身体が震える。

 それでも勝手に拳を握りしめる。

 目の前の化け物を倒すため、何度も反復した動きを、身体が再現しようとする。


「ステゴロだ。笑えよレイリア。楽しもう」

「ふ……ざけるなっ! このイカレ野郎ぉぉぉぉっ!」


 怒りと恐怖とよくわからない感情が頂点を超えて、レイリアに咆哮をあげさせた。


 身体が勝手に前に出る。

 拳が、蹴りが、めちゃくちゃに、それでいて聖教国式の型に従って突き出された。


「あぁあああっ!!!」


 レイリアは叫んだ。

 叫んで叫んで、殴って、蹴って、目の前の化け物を打ち倒そうとした。


「ああああああああああああああああああ!!!!」


 レイリアは泣いていた。

 怒りが、霧散していた。

 信じられないほどの恐怖に身体が勝手に動く。


 見える。

 少しずつ、少しずつ、ギールの左拳が後ろに引かれていく。

 弓矢を引き絞るような動き。


 止めないといけない。

 今すぐに殺さないといけない。


 そうしなければ、そうしなければレイリアは──。


「終わりだ。恥知らず」


 レイリアが繰り出す攻撃の隙間を縫って、ギールの腕が伸びてくる。


 レイリアにはそう見えていた。


「……ごふっ」


 そして次の瞬間、レイリアは血を吐き出した。

 腕は確かに伸びていた。

 もっと正確に言えば、拳がレイリアの胸を貫き、その“余り”の腕の部分をレイリアは見ていただけだった。


 身体から急激に力が抜けていく。

 当然だ。心臓を破壊されたのだから。


「この程度で最強を名乗るとは……だが、いい攻撃だった。俺の下で鍛えれば、一角の戦士にはなれただろうにな」

「…………」


 レイリアは口から血を垂らし、瞳はもう何の光も宿していなかった。


 死んでいた。

 最強のはずの聖教国軍の精鋭たちは、こうして終わりを迎えたのだった。


「さて、それじゃあ次に行くとするか」


 ギールはコアを奪い、出口へと歩いていく。

 口笛を吹きながら、弟子であり仲間であったはずの死体たちを一切見ることなく、SSS級冒険者は歩いていくのだった。


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