聖教国の精鋭VS極拳会
聖教国の最精鋭たちと、素手での戦闘集団『極拳会』の戦いが始まった。
極拳会はギール含めて11名。
対する聖教国軍は81名が生き残っている。
その実力を知るものからすれば、結果は火を見るよりも明らかだった。
聖教国軍の圧勝だ。
そもそも武器の扱いに長けた人間複数相手に、素手が勝てるはずもない。
そのはずだった。
「なっ!?」
兵士の剣を、極拳会の女は両手で挟んで受け止め、そのままへし折る。
またあるものは蹴りで盾を割り、剣を構える前に兵士の喉を拳で潰し、鼻、こめかみ、顎と殴ってふらつかせたあと、最後は蹴り──指の付け根にある硬い部分で顎を蹴り抜いて首を折って殺す。
極拳会を相手にして、武器は圧倒的な優位ではない。
「ひとりで相手をするな! 囲め!」
このまま極拳会が流れるように事を進めるかに見えたが、レイリアの冷静な声で兵士たちは複数人で固まる。
飛び上がってのパンチで盾が割られ、兵士の頭が潰される。
しかしその隙に左右から飛び出した兵士たちによって槍で突き刺される。
極拳会にも、死者が出た。
「おぉ、やるねぇ」
四肢を切り落とされ、無惨に死んでいく仲間を見ながらギールは嬉しそうに言う。
「お前たちは強いかもしれんが、勝ち目はないぞ」
目の前まで来て立ち止まったギールを、レイリアは睨む。
「勝ち目? そんなのは俺がいればどうとでもなる」
「魔王が復活しているんだぞ」
「は? わかっているさ。だからここにコアを取りに来た」
「こんなバカな小競り合いで人族を危険に晒すつもりか」
話している最中も、極拳会が兵士たちを葬り、また兵士たちが極拳会を仕留めていく。
「晒したくないなら、止めてみせろ。俺を。ただそれだけでいいんだぜ? シンプルな話だろう」
「バカが」
呟くと同時、レイリアは槍を恐ろしい速さで突き出す。
必殺の一撃。
ギールは反応できていない。
笑みを浮かべたまま、先ほどまでレイリアがいた場所を見つめたままだ。
が──。
「おぉ、速いねぇ」
「──ッ!?」
ぎょろりと視線がレイリアと槍を見る。
そして、最低限首を傾けただけで、レイリアの攻撃を避けてみせた。
「ふっ!」
しかしレイリアは驚異的な膂力で槍を止め、刃先を横薙ぎする。
狙いはギールの首。
だが、その横薙ぎもギールは避けた。
恐るべき柔軟性で、身体をぐにゃりと傾ける。
「ぎゃっ!?」
「あっ……!」
代わりに胴体を切断されたのは、背後からギールを狙っていた副官のエディンだった。
エディンは目を見開き、そのまま転がって死んだ。
「ふっふふ、連携が取れてないな。訓練不足なんじゃないか」
「き、さまぁっ」
怒りに毛が逆立つ。
レイリアは槍を振るう。突き出す。
だがどれも、紙一重で避けられる。
「聞いたことがあるぞ聖教国最強の女」
「……はぁ、はぁ、なにをだ」
「お前、SSS級冒険者など取るに足らないみたいなことを言っているらしいじゃないか」
「……それがどうした。事実だ」
「ふ、事実ね。堅物は冗談までつまらんな」
「死ね!」
油断が見えた。
瞬きをした。
その一瞬を逃すレイリアではない。
だが──。
「武器なんぞ捨てろ。聖教国最強、レイリア。ステゴロが一番いいぞ」
避けられた。
「この戦闘狂がっ!」
突く! 突く! 突く!
神速と呼んでもいい、恐るべき速さの刺突。
それなのに。
「この程度で倒せるわけがないだろう。少なくとも、俺はな」
「く、ぐぅぅぅっ!」
すべて避けられる。
怒りで奥歯が軋む。
目の前のこの男を殺したい。
あらゆる苦痛を与え、あらゆる屈辱を与え、その上で慈悲なく殺してやりたい。
だからこそ、気づかなかった。
もはや、兵士たちが誰も生き残っていないことを。
あれだけいた精鋭たちが、たった10名からなる極拳会の面々と相打ちになっていたことを。
「誰かひとりぐらいは生き残ると思ったんだがな。全部終わったら、また鍛え直しだ」
言うなり、ギールの雰囲気がグッと変わった。
「茶番は終わりだ。素手でかかってこい」
「はぁああああっ!!」
それは必殺の槍だった。
死槍『ビョンヒル』による刺突の連撃。
この攻撃を避けたものはいない。
身体に恐ろしいほどの負荷がかかるから、今まで使わなかった。
ありとあらゆる魔物たちを屠った最強の槍技。
しかし──。
裏拳一発だった。
突き出した槍はそれを柄に受けただけで、ボキリと折れてしまったのだった。




