北のダンジョン
「この布陣で攻略に行く」
自分を除く1000名の兵士の前で、レイリアは宣言した。
自らの私兵も含めた聖教国軍の精鋭たち。
国の守りのためにすべての精鋭とはいかないが、それでも各国の都市のひとつやふたつなら、副官エディンの言う通り、落とすことは可能だろう。
それほどの力。それほどの暴力。
この精鋭を作り上げたのは他でもないレイリアだ。
SSS級などという称号にあぐらをかく冒険者どもではたどり着けない強さの境地。
「各隊長はそれぞれの隊をまとめ、素早く道を切り拓け。諸君らの力を私は信じている」
「……」
兵士たちは何も言わない。
しかし無視ではない。無言の肯定。
この聖教国で精鋭を名乗る自負と能力。
そして、レイリアという最強の長に仕えているという誇り。
それらすべてが全身から溢れている。
言葉による返事など必要としない、軍団という群れの圧力。
「行くぞ」
号令はそれだけで良かった。
一糸乱れぬ動きで、兵士たちは動き出す。
レイリアは馬に跨り、横についたエディンと前を見据えたまま言葉を交わす。
「北を落としたらどうします?」
「次は南だ」
「東西は後回しですか?」
「いや、冒険者どもが来たら金でも握らせる」
「金など握らせなくても、脅せば良いではないですか」
「ふっ、連中の働きを労わなくてはいけない。それが宗主たる国の役目だ」
「なるほど」
「連中は自分たちこそ最強だと思っているが、その実ただのお山の大将だ。本格的に訓練を積み、実戦で鍛え上げた我々に勝てるはずもない。それが1000人。お前は抗うか? エディン」
「ふふふ、御免被りますよ。聖教国の精鋭相手なんて」
「そうだろう。それでいい。連中もそうだ。だから金を握らせる。自分たちは金で抵抗する権利を売ったのだと理解させる。どちらの立場が上かもな。所詮は忠義も志も信仰もない放浪者よ」
「私はあなたが恐ろしいですよ、レイリア様」
「ふ、恐ろしくなくて長など務まるものか」
☓ ☓ ☓
「……ここが北のダンジョン」
出立からおよそ半日。
たどり着いた場所は巨大な門を構えたダンジョンだった。
入口には多数のウェアウルフたちがいて、咆哮をあげている。
「戦闘準備を」
「待て」
エディンの指示を、レイリアが止める。
代わりに、自らの獲物である槍を抜いた。
「お前たちの体力も無駄な時間も使う必要はない。私がやる」
レイリアは馬を駆って前に出る。
そして飛びかかってくるウェアウルフたちに目を細め、槍を横に振った。
何の変哲もない鉄槍に見えた。
しかし、横薙ぎにしたレイリアの腕が消えたように見えた。
速すぎて見えないのだ。
「かっ……!?」
先頭にいたウェアウルフの首が飛んだ。
先頭だけではない。横にいたもの、後方にいたもの。
そのすべてのウェアウルフの頭、首、胴体が斬り飛ばされた。
ウェアウルフはA級の冒険者パーティーでも時に壊滅させるほどの魔物である。
単体でそれほどの強さを持ち、群れになれば、その推奨討伐ランクはSS級にまで跳ね上がる。
レイリアは、それをたった一撃で葬って見せた。
曰く、『死槍のレイリア』。
彼女の槍を前にして、立っていたものはいない。
「行くぞ」
槍の先端についた血を振って払い、何事もなかったかのように、出陣前と同じく声をかける。
「「「おぉっ!」」」
このときばかりは、美しく恐ろしいほど強い長の姿に、兵士たちは鬨の声を上げるのだった。




