パペットマスター
パペットマスター。
それがこの西のダンジョンに棲まうマスターの名だった。
その名のとおり、無数の土塊を人型にして敵を襲う。
一体、一体は弱くても数千、万の人海戦術に勝てる冒険者はいない。
数十名からなるパーティーならばいざ知らず、小娘ふたりのパーティーでは、恐ろしいほどの実力を持っていたとしても精々10分かそこらが限度である。
「──ッ!」
十分な数の兵士が出来上がると同時、パペットマスターはすぐさま攻撃に移る。
人海戦術はどんな状況にも対応できるが、大抵は先手必勝。
相手が何かを仕掛ける前に潰すのが基本だ。
これから先、数多の冒険者たちが挑んでくるだろう。
それでも、パペットマスターには必ず苦戦する。
なにせただ数が多いだけなのだから。
何度でも蘇る万の兵士。
人は疲弊する。しかし土塊たちもパペットマスターも疲れはしない。
相手が疲れ果てるまでただ押し潰すだけ。
それがシンプルにして究極の戦術だ。
「ほーれぃ!」
奇妙な掛け声が聞こえた。
直後、部屋の入口に紫電が幾重も走り、爆発が起こった。
「おー! すっごーい! じゃあ私もー」
さらに直後、いくつもの剣閃が飛ぶ。
気を飛ばしているのか? ただの衝撃波か?
とにかく飛んだ剣閃が人形たちの頭をスパスパ斬り落としていく。
3秒。
それが今、最初の掛け声から人形の頭が落ちるまでにかかった時間だ。
半壊した。
自慢の人形軍団が、万の兵士たちが半壊している。
「…………」
パペットマスターは己の口と目を縫って閉じている。
それでもわかる。
恐ろしいほどの手練れ。
ただの小娘なんてとんでもない。
こいつらはパペットマスターの全力で相手をしなければいけない相手。
そうパペットマスターが思い直し、土塊を再び兵士に変えようとしたときだった。
「あ、こいつだよールカち」
パペットマスターの目の前に、双剣を持った女がいた。
パペットマスターの顔を覗き込み、ひらひらと手を振っている。
「見えてるー? ダンジョンの守りお疲れ様。もう休んでいいよ」
女が、何を言っているのかわからなかった。
思考の空白。
パペットマスターは、一秒を無駄にしてしまった。
次にハッとしたときには、顔を覗き込んできた女の背後にハンマーを携えて飛びかかってくる女がいることに気づいた。
知覚した。
だが、“知覚できただけだ”。
「ほ〜い!」
女、ルカの掛け声とともにパペットマスターの頭にハンマーが振り下ろされる。
SSS級の中でも最強に近いルカの一撃を受け止められるほど、パペットマスターは強くない。
本来であれば、なかなかに硬いはずだったが、ルカやブリュンヒルデの前では無意味だった。
「あともらうねー」
「好きにどうぞ〜」
ルカは答えつつ、溶けていくパペットマスターの体内から出現したダンジョンコアを取ってアイテムバッグに収納する。
これであとは魔王城があるという場所に行けばいい。
残りの3つのダンジョンが攻略されてなかったら、面倒だがまた攻略すればいい。
それだけの話だ。
「うひゃー!」
ブリュンヒルデが楽しそうにマスターを失った土塊の兵士たちを切り刻んでいく。
あっさりと倒しているが、それぞれがB級からA級冒険者クラスの力量を持っているのだが、ふたりには関係ない。
「この分だと、勇者より先に魔王倒せちゃうかなぁ〜。それだと面白いんだけどなぁ」
そんなことを言いながら、ルカはブリュンヒルデが最後の一体の頭を蹴り飛ばすまで、のんびりと戦闘を眺めて棒付きキャンディーを口の中で転がすのであった。




