雷剣──細切れのナッシュ
雷剣のナッシュはそれなりの才能しか持たない冒険者だった。
血の滲む努力をしたとして、たどり着けるのは精々がSS級。
人類の到達点であり、その先の人外の領域であるSSS級には行けない。
それが、見るものが見ればわかる、雷剣のナッシュという男の限界値だった。
そのはずだった。
だが、あの敗北からナッシュは変わった。
生まれ変わったと言ってもいい。
あの男に虫けらのように踏み潰されてから、人外たちの存在を知った。
そうして、自分がそこにたどり着くにはどうすればいいか考えた。
考えて、考えて、自分が依頼を受けられる魔物を全部討伐して、殺すのはリクドなのだから人間を相手にしなくてはいけないと考えて、それから人間相手ばかりの討伐を繰り返した。
そうして、とある盗賊団を細切れにしたときのことだった。
戦利品のひとつだろう、あるペンダントに呼ばれているような気がしてそれを手にした。
“力が欲しいか。あの男を殺せるほどの力が”。
聞こえた声に、ナッシュは返事をしていた。
その瞬間から、ナッシュは自らの行いが正しかったことを悟った。
人を殺したいのであれば、人を殺すべし。
ナッシュは雷剣から、細切れと呼ばれるようになった。
盗賊団や野盗集団から恐れられ、差し向けられた暗殺者もすべて返り討ちにした。
あれほど欲しかった名声も、市民からの称賛も、今はどうでも良かった。
とにかく人を殺した。殺してもいい悪党どもを、容赦なく切り刻んだ。
盗賊どもを殺すたび、この身に力が宿った。
それでも、足りないと思った。
あの男を殺すには。
ペンダントに眠る力は言った。
“ならば、食え”。と。
そうして、ナッシュは導かれるままここへやってきた。
「かはっ……はぁぁ……はぁぁ……」
目の前には荒く息を吐く獣がいる。
両手両足を刻まれ、立ち上がることすらできない。
目も潰した。もう何も見えていないだろう。
気配だけは察しているはずだ。
仮にも、魔王城への鍵を預かるダンジョンのマスターなのだから。
そういう相手だからこそ、喰いでがある。
「いただきます」
ナッシュは笑みを浮かべ、ダンジョンマスターである虎の額に剣を突き立てる。
切っ先に何かが突き刺さる。
それは、コアだった。
コアを引きずり出すと、藍色の虎は溶けていく。
最後は粒子となって、藍色の砂となって瓦礫の中に混じっていった。
「……」
ナッシュはコアを一口で飲み込んだ。
大きすぎて物理的に不可能なはずだが、魔力の塊であるコアはそれを可能にした。
そしてナッシュは──。
「ふはっ、ふはははははっ! これだ! この力っ! これであの男! リクドをぶち殺せる! はは、ははははははははははは!」
そうしてここにまたひとり、新たな化け物が生まれるのだった。




