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風のダンジョンマスター

「はっ!」


 連獅子が刀を振るうと、スライム型の魔物が真っ二つになった。

 核も切断され、一瞬で絶命する。


「さすがですね、連獅子さん」


 その無駄のない攻撃を見て、S級冒険者のチナキが称賛する。

 同じ刀使いであるチナキは、連獅子のことを師匠のように見ているのだ。


「今はまだ差があるだけだ。君も鍛錬と実戦を繰り返せばすぐにこれぐらいできるようになる」


 スライムの核を切っ先で刺し、アイテムボックスに入れながら連獅子は返す。


「アバトルトスライムを一撃なんて、どれだけの鍛錬が必要なんですか」


 チナキが溶けていくスライムを見て呆れたように呟く。


 アバトルトスライムはS級以上しか攻略を認められないダンジョンに生息する魔物だ。

 普通のスライムと違い、まず武器が通らないと考えたほうがいい。


 速度、力、そして武器の能力すべてを合わせないと勝負にすらならない。

 核にたどり着く前に、その皮膚の弾力と硬質に負けて数多の冒険者が命を散らしてきた。


 チナキとて、アバトルトスライムを倒せはするがかなりの攻撃を加えなくてはいけない。

 身体を削って削って、そしてようやく核を破壊できるのだ。


 しかもアバトルトスライムが群れることを好まない生態だからこそ可能なことで、偶然にも何匹か揃ってしまったらチナキは迷わず逃げる。

 連獅子のように一撃で殺せないなら、戦わない。

 その逃走までの判断の速さもまた、S級に限らず生き残る冒険者には必要な能力だった。


「そろそろ着くぞ」


 連獅子が言うと、即席のS級以上パーティーの面々が立ち止まる。

 直前まで、何もなかった。


 しかし一歩そこに足を踏み入れた瞬間、ビリビリと凄まじい圧力が襲ってくる。


 ダンジョンマスターの領域。


「これが……魔王城へ続くためのコアを守る……」


 チナキは息苦しさを覚え、喘ぐように呟く。


 目の前に広がるのは巨大な空間。


 完全な闇。


 そこに、何かが蠢く気配を感じる。


 巨大な物体だった。

 何か大きな存在が動いている。


「来るっ……!」


 チナキの横で、ナッシュが言った。

 なぜかチナキはそのとき、ナッシュの横顔を見た。


 ナッシュは嗤っていた。

 口角を上げ、獰猛な獣みたいに。


 風が吹いた。


 こっ、と奇妙な音がした。


 連獅子が横に跳んでいた。

 他のSS級も全員がそれぞれ直線上から離れるように跳んでいた。


 生温かいものに触れた。


 前にいた人たちが消え失せて、ああ、何かを避けたんだなとチナキは知覚する。


 じゃあ、俺は──?


 ぐるんぐるんと辺りを見回して、何人かのS級が身体を失ったり、頭の半分が失くなっているのが見えた。


 血が見える。

 吹き出した血が、いたるところで舞っていた。


 ん? 違う。

 これは俺の血か?

 俺、の? どこから?


 おい、誰だよ。

 突然目の前に立つな。


 あれ? 俺と同じ刀?

 そんなヤツいなかったよな?

 そもそも刀は俺と連獅子さんだ


 ごとりとチナキの頭が地面に落ちる。

 遅れて身体が倒れた。


「ゴルルル……」


 倒れ伏す冒険者たちの間に立っていたのは、藍色の虎型の魔獣だった。


「ダンジョンマスター……」


 連獅子以下、歴戦の猛者であるはずの冒険者たちが恐怖混じりの唾を飲み込み、ごくりと喉を鳴らす。


 虎の口には、S級冒険者の頭が咥えられ……そして、ごじゃりと噛み潰された。


「……くくく」


 その様子を見て嗤っているのは、淀んだ瞳のナッシュただひとりだけだった。


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