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連獅子の懸念

「誰しもが、最強を目指す。それはこんな稼業をやっていれば当然の帰結だ」


 流しを着た男、SS級冒険者の連獅子が言った。


「……はい」


 答えるのは、S級冒険者、雷剣のナッシュだった。

 彼の他にも、S級やSS級の冒険者たちが20名近くいた。


 東のダンジョン。

 魔王誕生と同時に出現した、四大元素の風を司るダンジョンである。


 その攻略に選ばれたのは連獅子を筆頭にしたS級以上の冒険者たちの巨大パーティーだ。


 SSS級はひとりもいない。

 だが、その分連携などでダンジョンの強敵たちを屠ってきた。


「最強を目指すために必要なことは己を磨くことの他にも、その力量を見極める目だ」

「……」


 連獅子の言葉に、ナッシュは今度は無言だった。


「先ほどのような失態は、もうするなよ」

「…………はい」


 ナッシュはイケメンだった。

 見目の良い、実力のある冒険者。


 そのはずだったが、今のナッシュにその面影はない。


 顔の形は整ったままだが、瞳に快活な光はない。

 自信にあふれ、このままSSS級まで駆け上がるというような覇気も。


 かわりに瞳に浮かぶのはどろりとした濁りだ。


 ある日を境にナッシュはその爽やかさを失った。

 受ける依頼は魔物討伐ではなく、盗賊や野盗退治に偏り始めた。


 そして、容赦なく斬った。

 雷剣としての実力をいかんなく発揮して、人を“討伐”した。


 それもただ斬るだけではない。

 死んだ相手を執拗に切り刻むのだ。


 雷剣はいつしか、細切れのナッシュと呼ばれるようになっていった。


「魔物相手は久しぶりなので、すみません。すぐに修正します」


 ナッシュは急に、頭で考えたセリフを読んだだけのような口調で言って、再び口を閉ざした。


 異様だった。

 冒険者たちは即席パーティーだったが、知り合い同士でそれなりに話に興じていた。

 だが、ナッシュの気配が濃くなるにつれて、異様な緊張感が漂い始めたのだ。


(危ういな)


 連獅子は思う。

 ギルドから勧められた冒険者たちを入れて攻略にやってきた。


 雷剣のことは以前から知っていたし、人となりも把握している。

 そのつもりだった。


(この短期間に何があった。そして恐ろしいことに……)


 皮肉にも、雷剣のナッシュという皮が剥がれていくにつれて、ナッシュの実力が上がっている。

 賊とはいえ大量の人間を殺したことで何かが目覚めたのか。


 しかしそれは連獅子でなくとも危ういと思うだろう。

 言ってしまえばそれは同族殺しの力量が高いということである。


 もしもこの男が暴走した場合。


 連獅子ならば止められる。

 彼我の実力差を見誤りはしない。


 だが、止める間に何人殺されるか。


 それは読めなかった。


(前門の虎、後門の狼……)


 魔王を倒すためにはダンジョンコアが必要だという。

 勇者が現れるまでにそのうちのひとつを手に入れておきたい諸国のギルドからの依頼だ。

 光栄に思う。


 だが、この危うい男を引き連れた状態で凶悪なダンジョンマスターと戦うことは可能か。

 今さらここで待てと言って、待つとも思えない。


 ナッシュには何か強い意志を感じるのも確かだ。

 力を発揮してくれるなら、必ずこのパーティーの生存率を上げる働きをするだろう。


 だから、杞憂であってくれと願う。

 

 そうじゃなければ、この手でナッシュを殺さなくてはいけない事態となる。


(やれやれ)


 連獅子は自らの頭で肥大化した考えに嘆息する。


(やはりエスジックさんが到着するのを待つべきだったか)


 連獅子は同じ階級でありながら、冒険者としての経験も練度も違う老人のことを考え、もう一度嘆息するのであった。


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