雷槌と双剣
「すっごいおっきいー。あはは」
双剣を腰に佩いた女が巨岩を見上げて笑った。
『双剣ブリュンヒルデ』。SSS級の冒険者である。
「なーんであんたがいるわけ〜?」
聞いたのは横にいる背の低い女性だった。
肩に担いだ巨大なハンマーが、その存在感をさらに強烈にしている。
『雷鎚のルカ』。魔獣さえも一撃で葬るSSS級冒険者だ。
ふたりの前には巨岩がある。
もちろんただの巨岩ではない。
それは、出現したダンジョンの入口を守る魔獣だった。
イブルガルドゴーレム。
先代魔王を討伐するため、ダンジョンコアを求めてやってきたある王国の精鋭1000人を叩き潰したことで有名である。
高さは20メートルにも及ぶ。
身体は巨岩めいているが、その硬さは岩というよりダイヤモンドであった。
鉄の剣は折られ、槍は通らず、矢は弾かれ、盾は砕かれた。
投擲車から放たれた岩ですら、山に投げつけられた土塊のように脆く崩れ去った。
ゴーレムを倒したのは当時の10人のSSS級冒険者である。
4人のSSS級を犠牲にして、ゴーレムはようやく打ち倒された。
そんな化け物を相手にSSS級とはいえ、たったふたり。
無謀である。手段を変えた自殺である。
イブルガルドゴーレムが侵入者を捉え、動き出す。
パラパラと体の表面についた鉱石が落ち始める。
ひとつひとつが地面に突き刺さるほどの重さと硬さを持っている。
「うわ、動いたよルカちゃん! どうする? やっちゃう?」
ブリュンヒルデが楽しそうに聞く。
「やるに決まってるでしょ〜。じゃなきゃ来ないでしょ」
「そりゃそうだよねー、あははは」
ルカの返答に当然だとばかりに笑うブリュンヒルデ。
ふたりの顔には緊張も焦りもない。
口角が上がりっぱなしなのも、恐怖から身体が強張って動かなくなっているわけでもない。
ふたりとも、“化け物退治”が好きなのだ。
「あ、いいなー」
ブリュンヒルデはルカが懐から棒付きキャンディーを取り出して咥えたのを見た。
「私にもちょーだい」
「やだ。自分のやつ持ってんでしょ〜」
「ちぇー」
言いつつ、ブリュンヒルデはルカと同じように懐から乾燥肉を取り出す。
牛型の魔物から作られた肉を口に放り込んで噛みながら、双剣を抜く。
「そんじゃー始めようか。ルーカちゃん」
「足引っ張んないでよ〜」
「誰に言ってんのー。私だよー? 引っ張るどころか背中突き飛ばしてあげるってー」
「……シンプルに邪魔じゃん」
緊張感のかけらもない会話をしながら、SSS級の冒険者ふたりは凶悪な門番と戦い始めるのだった。




