シャズレンとその祝福
「そういや、どうしてお前さんはそんなに強いんだ」
熾火に鍋を置いてスープを作っていると、クラッドが聞いてきた。
俺は皿にスープをよそって味見をしつつ、これまでの経緯を話す。
自身が病弱であったこと。
回復したあとは頑健になり、身体を動かすこと、鍛錬することが楽しくてこうなったこと。
「武器を使おうとは考えなかったのか? ステゴロだけでそれだけで強いなら、武器を使ったら……」
「いや、使えないんだ」
「使えない? 武器の扱いが致命的に下手くそってことか?」
「違う違う」
俺は笑いながら否定する。
それからスープを指さす。
中身は野菜と鶏肉の至って普通のスープだ。
しかしそれらはすべて手でちぎったものである。
「俺には呪いがかけられている。武器の類が持てない呪いだ」
「……呪い? そんなものがあるのか?」
「ああ、それを武器として使おうとすれば持つことすらできない。幸い、スプーンやフォーク、箸なんかは使える。ナイフだって料理のためであれば使えないこともない」
「……ふむ」
「だけどナイフなんかは冒険者稼業をやっている限り、どうしてもとっさのときに武器として扱ってしまうだろう? 俺にその気がなくてもだ。そうなるともう道具を持つのがめんどくさくなる。だから俺はずいぶん長い間、このスープの具材みたいに手でちぎるようにしている」
「なるほどな。ちなみにその呪いってのは生まれたときからか?」
「……おそらく」
「武器か……その呪いをかけたやつってのは、戦闘の神だったりするか?」
「知ってるのか!? シャズレンという名前らしいんだが」
「シャズレンか……」
名を聞き、クラッドが手で顎をさする。
何か思い出そうと視線を上げて、それから再び俺を見た。
「その名を知ってはいる。だが、詳細はわからない」
「どこで名を? 俺が探しているときは名すら見つからなかった」
「そりゃそうだろうな。シャズレンは基本的に古文書の類にしか出てこない。古代文明の神だよ。戦の神にして、大神の一柱。シャズレンの加護を受けた部族は無類の強さを誇ったそうだ」
「それほどの神なのか」
大神と書かれていたからかなりの位なのだろうと思っていたが、実際にそこまでの力を使えるとなると相当だ。
「さらに武具の扱いも超一流となる。徒手空拳でも恐ろしいほど強いが、武器をもたせたら一騎当千なんてレベルじゃないほどに強くなる。だが、滅んだ」
クラッドの声のトーンは一段下がる。
なぜか瞳の光も暗くなった気がした。
「シャズレンはある時期を境に一切歴史書や壁画などに姿を現さなくなる。そんな存在があったことなどなかったように。抹消されているんだな。意図的に」
「恐ろしいほど強かったのにか?」
「ああ、これは憶測になるんだが、シャズレンはやりすぎた」
「やりすぎた?」
「人知を超えた人間を作りすぎたんだ。力を与えすぎてな。だから他の神々によって拘束され、存在を消された。大神の一柱だからな、完全に消滅はできないだろうから封印という形になるんだろうか。それらしき古い文献もあるにはある。信憑性という点では疑問もあるが」
「それなら、シャズレンはどうやって俺に呪いを……」
「そこなんだよ。俺はシャズレンの呪いなんて話を聞いたことはない。祝福ならまだしも、呪いならリクド、お前さんはもっと弱いはずだ」
「ああ……」
人知を超えた強さを与える大神シャズレン。
呪いならばその逆、人知を超えた弱さを与えるのではないか。
「と、まあこれぐらいだ」
「詳細を知らないと言いながら、ずいぶんと詳しいじゃないか」
「全然だ。これぐらいならちょっと考古学とフィールドワークを齧ってるヤツなら知ってる。そんなことをするヤツ自体が少ないから、シャズレンは知られていないという話でもあるからな」
「……そうか。なら、呪いをどうやって解けばいいのか。なぜこんな呪いをかけられたのかを知るのは、本を調べるだけでは難しいか」
これまで何の手がかりもなかったシャズレンに関して、かなりの情報を手に入れた結果、自分にかけられた呪いがよりわからなくなった。
「まあ、調べるってのはそういうもんさ。魔王を倒せたら俺も手伝ってやるから、そのときにシャズレンについて調べようぜ」
「いいのか?」
「もちろん。お前さんについて知れば知るほど、ついていったほうが面白そうだ」
「……助かる」
俺はどうやらいい奴と出会ったようだ。
そんなことを考えながら、それから他愛ない話をして食事を終え、就寝する。
最初の見張りはクラッドがやってくれるというので、言葉に甘えることにした。
ひとりでも気配があれば起きられるが、仲間がいるというのはこういうときに良いと思う。
そして俺はすぐに、眠りに落ちた。
☓ ☓ ☓
クラッドは燃える火を見つめていた。
火の中には、様々な光景が浮かぶ。
(シャズレン……我が崇拝する神……)
赤い身体に憤怒の表情。
神は炎のように逆立ち、六本ある腕にはそれぞれ武器が構えられている。
その姿を知るものは、この世界にはほぼいない。
ごくごく少数の人間だけが、その名と姿を知っている。
クラッドは焚き火越しに眠るリクドを見つめる。
ステゴロ最強の男。
魔王さえも倒しうる存在。
(面白くなってきたなぁ……)
クラッドは口角を上げ、木筒に入れた酒精の強い酒を呷るのだった。




