そんなヤツがいればたとえ人間だとしても
「私はね、SSS級の人間が大嫌いで大好きなんだ」
外法の男、ユーゲンが呟いた。
深い森の中、傍らに物言わぬ男をひとり護衛において、双眼鏡で聳える巨山を見つめていた。
ダークドラゴンたちが根城にしている山だ。
「あのフォルムにあの圧倒的な存在感、魔物によって破壊され、蹂躙され、理不尽に命を刈り取られていく。それが自然の、あるべき姿だ」
思い出すのは幼少の頃、魔物の虐殺によって村がほぼ壊滅した光景。
未だにゾクゾクと肌が粟立つ。
人という種がなすすべなく消失していく様。
血の匂い。肉と骨と悲鳴までも咀嚼していく音。
ユーゲンという人種を決定的に形作った出来事。
「だからあの魔物たちがSSS級にあっけなく殺されたと知ったときは本当に怒り狂った。だがね、SSS級という人外を見て私は思ったよ。ああ、こいつらも同じく魔物である、と」
ユーゲンが見たことのあるSSS級は5人。
その内、3人は相打ち、もしくは魔物に殺害されてもうこの世にはいない。
それでも、全員恐ろしいほどの強さだった。
あの日の魔物を思わせるような最凶にして最悪、災害と呼ぶに相応しいものたち。
だがそれでも、それでもだ。
「私は魔物という種を信じている。もっと強くなれる。もっと、もっと、もっと。だからSSS級という人外たちの強さは素晴らしいと思う。同時に、そいつらすらも軽く屠る魔物が現れることも信じている。いや、確信しているのだ」
ユーゲンの視線の先には、ダークドラゴンたちの根城がある。
高い知能を有し、ドラゴン種の中でもかなりの力を誇るダークドラゴン。
もしも彼らが悠然と構えたりせず、ただひたすらに欲望のまま破壊の限りを尽くしたら?
「……美しい」
ユーゲンの瞳には燃え盛ることさえせず、削られた巨大な穴となる都市の姿が浮かんでいた。
人々が悲鳴を上げる間もなく、消し飛ばされていく光景。
無慈悲で、無常。
力とは、見えるものであり、同時に見えないものでもある。
行使された力とその結果が圧倒的であるほど、ユーゲンは身震いするほどに感動してしまうのだ。
その様が見たい。
そのために欲しいのだ。
ダークドラゴンの素体が。
あの圧倒的なポテンシャルを持つ、巨躯が。
「もしも彼らのように圧倒的な力を持つ者が現れ、その力を行使することに何のためらいも持たないのであれば、それがたとえ人であろうとも私はその存在を歓迎する……」
恍惚とした表情でユーゲンが呟いた直後だった。
「……ん? なんだ?」
見つめていた山から黒い影が飛び出す。
それはダークドラゴンだった。
偵察か、遊びか。
とにかく1匹のダークドラゴンが飛び出した。
かと思った次の瞬間。
「……なに?」
大量のダークドラゴンが飛び出し、黒い群れとなって巨山の周囲を旋回する。
そして、どこかへと飛んで行ってしまった。
「な、なんだ? 何が起こっている? まさか、巣を変えるのか? なぜこんな時期に……いや、しかしあの傲慢で高潔な種が……」
混乱するユーゲンの肩に、ぽんっと手が置かれる。
今まで物言わぬ人形のように立っていた男だった。
「マスター。全部ではありません。巨大な気配が、まだ1匹だけ残っています」
「本当か?」
「はい。しかし、これはすでに死んでいます。いかがしますか?」
男の言葉にユーゲンは一瞬唖然としたあと、にやぁぁっと顔を歪めた。
「行くぞ、この上ないチャンスではないか。ははは、手に入る。ダークドラゴンが」
そう言って、ユーゲンと男は巨山を目指して走り始めるのだった。




