変容していく己の本質
魔物が飛び出してきたので、手のひらで頭部を叩いて地面に落とす。
それで終わり。
たぶん、この魔物は自分が死んだことも、痛みが“あった”ことも知らずに絶命したはずだ。
とてつもないレベル差だからできる、災害に直撃したような死。
それを幸福と呼べるかはわからないが、少なくとも、痛みに苦しむようなことはない。
魔王の気配を追っている道中の始まりのことだった。
俺はリクド・アルスベールという人間に転生してから初めて、退屈という感覚に襲われそうになっていた。
すべては、あの魔王エンリケのせいである。
ヤツに殴られたとき。
久しぶりにダメージを負ったとき。
血が沸いた感覚をつい先ほどのように思い出せる。
ヤツと戦いたい。
この力を全力で振るいたい。
そういう欲望が、強烈に頭をもたげ始めたのだ。
魔王がいなければ知らなかった感覚。
レベル999という現時点ではほぼ最強である力に、指向性が加わってしまった。
だから、ただの魔物ではもう俺を満たせなくなっている。
贅沢で、傲慢な考え方だ。
相手に対して敬意はあれど、前のような純粋な高揚ではない。
いや、逆により純粋になったというべきか。
ひ弱で虚弱で、己の身体がただの重い器であった俺は自由を得て、そしてこの力を全力で振るえる相手を、好敵手をずっと探していたのだ。
それが魔王。
俺は、ヤツと全力で戦い、そして勝ちたいと思っている。
ここまでの欲望が、感情が出てくることはなかった。
そんなことを考える暇がなかったというか。
自分がそんなことを望むのは違うと思い込んでいたフシがある。
おそらく、前世の記憶。前世の境遇。
だが、今は違う。
今はリクド・アルスベール。
俺はレベルを999まで上げた、ひ弱でも虚弱でもない人間なのだ。
それは、渇きに似ていた。
潤せるのは、傍から見ればイカれてるとしか思えない、素手での闘争しかないのかもしれない。




