魔王VSダークドラゴンの長
ニスフィラムは自分が負けるなんて考えない。
当然だ。ダークドラゴンは頂点である。
生物の頂点であり、この世の生物はただ気まぐれに、ダークドラゴンが滅ぼさないから生きているだけである。
魔王とて当然、その他の生物のくくりに入る。
ゆえに、ニスフィラムは全力で前腕を振るった。
存在すら消し飛ばす一撃。
肉片すら残す気さえないような、最凶の一撃。
魔王を奴隷にすると言ったが、そんなつもりなど微塵もない。
魔王すら、ダークドラゴンという種に比べれば劣る。
そしてニスフィラムの前腕は魔王に──。
「──は?」
当たらなかった。
魔王はそこにいる。
だが、当たらなかったのだ。
そよ風すら起きていない。
そんな態度のまま突っ立っている魔王。
そして、ニスフィラムの“視界から消えた己の腕”。
「──ッ?!」
気づいた瞬間、脂汗が一瞬で体表を覆った。
振るった腕が消し飛んでいた。
人で言えば肘にあたる部分から先が消失している。
「──!!」
何をした!と叫ぶという愚行はしなかった。
反射的な行動であった。
ニスフィラムは自身の最大火力である魔法、インフェルノを放つために大きく顎を開いた。
ずらりと牙の並んだ口腔の中心に魔法陣が浮かび上がる。
凄まじい量の魔力が飲み込まれ、巨大な魔法へと変わっていく。
ダークドラゴンが扱う闇魔法『インフェルノ』。
巨大な黒い炎は何物さえも残さず塵に変える。
発動してから発射までは約1秒。
何人たりとも、この魔法を阻止することはできない。
そのはずだった。
「遅いなぁ。ダークドラゴン」
「──ッ?!」
ニスフィラムの眼前に魔王がいた。
魔王はそのままニスフィラムの頭に手を置く。
そう。
手を置かれた。
感覚としては、ただそれだけだった。
しかし、その異常な重さにニスフィラムは口を閉じさせられ、地面に叩きつけられる。
「ぐがぁあああっ! がぁあああああっ!」
ニスフィラムは暴れた。
口を開けねばならない。
魔法はもう発動している。
あとはこの魔法の行く末を定めてやらねばならない。
そうしなければ、この魔法は、インフェルノは──。
「つまらんな。やはりあいつのほうが楽しませてくれる」
「ぐげっ」
魔王が軽く力を込めると、ニスフィラムの頭が地面にめり込む。
直後、行き場を失った魔法が口腔で暴発し、ニスフィラムの頭がボンッと弾け飛んだ。
「汚い」
魔王は暴発したインフェルノをほぼ間近で喰らったというのに顔色一つ変えず、ダメージすらなく、手を振って血を払うだけだった。
「我が命令するまで好きに過ごせ」
魔王エンリケは、力の差を思い知らされて震えながら頭を垂れるダークドラゴンたちに命じて、山を下りていく。
「ふっふ、こいつらをヤツにけしかけたらどうなるか。いや、結果はわかりきっているか」
魔王はそんなことをつぶやきながら、楽しそうに去るのだった。




