愉悦する魔王
「くくく、たまらんな。やつは強くなる。我に匹敵するほど」
魔王城。
玉座に座る魔王エンリケは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「それほどですか?」
聞いたのは牛の頭をした鬼、牛頭。
「魔王様を喜ばせるほどのものが人族にいるとは信じられませぬ」
言ったのは馬の頭をした鬼、馬頭。
二匹は一度魔王によって殺されたが、大量の瘴気を魔王によって練り込まれ復活していた。
それからは王位簒奪など考えもせず、忠実な配下として魔王に仕えている。
「ヤツは死ななかった。我の拳を喰らって」
「なっ?!」
「そ、そんなバカなッ……!?」
二匹が驚愕する。
それもそのはず。
二匹は拳どころか腕を払われただけでその頭部を消し飛ばされたのだ。
拳。
つまり魔王に殴られたということ。
そんなこと、己の身であったなら魂まで消し飛ぶかもしれない。
牛頭と馬頭は同じことを想像し、同時に身震いした。
「久しぶりだ。こんなに気が昂るのは。ヤツは必ず強くなってやってくる。こちらも準備せねばな」
「準備でございますか?」
「ああ。牛頭、ダークドラゴンたちはどうしてる? 従うと言ったか?」
聞かれた牛頭は頭を垂れた。
冷や汗をかいている。
「も、申し訳ございません。ダークドラゴンの連中は未だ首を縦には振らず。曰く、生まれたばかりの魔王など……その、お、恐るに足らず……と」
「くっ、くはははは」
魔王が嗤う。
牛頭と馬頭は、知らず全身に鳥肌を立てていた。
何か気まぐれがあれば再び頭が消し飛ぶ。
そんな緊張感が場にあった。
「なるほど、それもそうだ。今はまだ魔王という名だけ。実力を示してこその魔王。そのとおりだな。よし、では直接行って話し合ってくるとしよう」
「御身自らでございますか!?」
「そうだ。ダークドラゴンは先の大戦において相当の人族や亜人族を蹂躙した。此度もその力を存分に奮ってもらうことにせねば」
「し、しかし……もう少し時間をいただければ我々で必ず……」
「良い」
ビリッ、と牛頭と馬頭の身体を硬直させるような圧が場を支配した。
わずかにでも動けば首が、いや全身がなくなる。
そんな圧だ。
「お前たちの失敗を咎めようとしているわけではない。少し暴れたいだけだ」
魔王は微笑み、そして部屋から出ていく。
残された牛頭と馬頭は魔王がいなくなってもしばらく、頭を上げることが出来なかった。




