狙いを定める先を見つけた
「行くのか……リクド」
早朝。
荷物を担いで街から出ようとしたところで、声をかけられた。
振り向くと、エリーが立っていた。
いつもの鎧姿ではない。
普通の町娘といった様子の、可愛らしい格好だった。
「ああ。魔王は俺をご指名だったしな」
「……止めても、無駄なんだろうな」
「ああ。悪いな」
「…………死ぬなよ」
「ああ」
俺は笑顔で頷き、改めて出発する。
一時的にパーティーを組んだだけの俺を心配してくれる。
エリーはいい奴だな。
そんなことを思いながら、俺は街を出た。
☓ ☓ ☓
「こんなところかな」
道中。
魔王城へ続くと思われる巨大な気配に向かう道すがら、リクドは近隣に感じた強大な魔物たちを蹴散らすことにした。
A級パーティー以上からS級以上と指定のあった魔物たちを片付けていく。
山となった魔物たちの死骸は、いずれ他の魔物たちが食うことだろう。
屍肉食いを専門とするゴブリンもいるようだし、瘴気溜まりなどにはならないはずだ。
「流れ者家業とはいえ、勝手に移動するわけだからな。これぐらいはしておこう」
人手が足りなくて対処できなかった依頼分を勝手に片付けておく。
こうして間引きしておけばA級パーティーでも少しは安全に討伐が出来るようになるだろうし、せめてもの罪滅ぼしだ。
「うっぅうぅううっ……あぁあ〜」
長く“のび”をする。
空が高い。
身体が好調だ。好調すぎる。絶好調ってヤツだろう。
こんな状態になったことがない。
前世では、こんな具合になることは奇跡でも起きなければ無理だっただろう。
今は、常にこういう状態であることを改めて確認する。
身体が動く。思い通りに四肢が動く。
それがどれほど素晴らしいことか、リクドは改めて自覚する。
「でも、罪滅ぼしなんて言い訳だな」
血が沸き立つのがわかる。
身体が疼いている。
リクドはこれまで頑健な身体と精神を持て余していただけだった。
魔物を倒してレベルを上げ続けたのも、その狂乱とも言うべき思考で何年も続けていただけだった。
けれど今、その狂乱の向かう先が見つかった。
見つかってしまった。
強者と戦いたい。
魔王と戦い、この手で倒したい。
膨れ上がる。
気持ちが昂り、顔に笑みという形で現れる。
「ごがぁあああっ!!」
その気にあてられたのか、熊の形をした魔物が森の奥から姿を現した。
身長は6メートルほどはあるだろうか。
前世なら軍隊が出動しなければいけないほどの相手。
両目に傷を負い、胸にも十字の傷がある。
それでも生きている。つまり、こいつに手傷を負わせた冒険者は喰われたか。
この熊は、相当に強い。
「ごがああああああっ!!」
熊が突進してくる。
巨体のくせに、恐ろしく速い。
──だがそれでも、魔王のパンチよりは遅かった。
「助かった。何でもいいから殴りたかったんだ」
リクドは左の手のひらを前に突き出し、右手を拳にして腰だめにする。
そして──。
パァァァァァンッ──と、周囲一帯の空気を弾けさせるような音が響いた。
熊の頭部と胸が消し飛んでいた。
両腕がぼとりと落ち、残った下半身も崩れ落ちた。
「よし、行くか」
リクドが知らずに抑え込んでいた力が解放され、それからまた抑え込まれていく。
全力全開のパンチは、鳥たちすら木々から飛び立てないほどの威力だった。
そして、リクドが知る由もないが、この熊はネームドだった。
推奨討伐級SSS『十字の傷眼』は、こうしてただの一撃で屠られたのだった。




