SSS級の危険な男
「俺は、戦いを尊ぶ」
とある街の片隅にある建物の中だった。
簡素なイスとテーブルがあるだけのそこに、様々な姿形をした男女がいた。
総勢で10は超えている。
それぞれが思い思いの場所にもたれかかったり、腰掛けたりしていた。
「それが武器を持たないものであれば、なおいい」
窓を背にした男が言った。
「素手での戦いは特に尊い。相手を、破壊する悦びがある」
男は鋼のような肉体を持っていた。
拳は何度も何度も皮膚を破き、肉を、骨を露出させたため、尋常ではないほど分厚くなっている。
もはやそれは皮膚というよりも、鱗のようだった。
「素手での戦いにおいて負けるのであれば、仕方ない。受け入れよう。お前たちが負けるときもそうだ。みっともなくあがき、武器を持とうなどと考えるなよ。そう考えたら、代わりに俺がお前たちを殺す」
男の熱のこもらない言葉に、歴戦の戦士たち、それも冒険者になればSからSS級の実力はある男女に緊張が走る。
それもそのはずだ。
目の前にいる男は、冒険者の、いや人類の到達点のひとつである冒険者SSS級『極拳のギール』であったからだ。
そして男女たちの師であり、組織のボスでもある。
己の肉体のみで敵を破壊し尽くすことを信条とし、それ以外の生活や人らしいことを排除した集団『極拳会』。
それが、この集団を表す名前であった。
「一番新参であったとはいえ、俺たちの同胞であるスムウェルの頭を消し飛ばした男、そいつの名がわかった」
ギールの発言に、部屋の中の空気がざわりと動く。
「つい先日、S級冒険者となったリクド・アルスベール。それがヤツの名だ」
リクド。
その名を誰かが口にすると、伝播するように口々にその名がつぶやかれた。
「そして復活した魔王と新たに出現した凶悪なダンジョン。くく、面白いことになるぞ。お前たち」
ギールは、本当に楽しそうに笑みを浮かべた。
リクドのことも怨みや仇相手という思いで見ていない。
「魔王もダンジョンも未知なる強者も、そしてリクド・アルスベールも、ぜーんぶ殴り殺すぞ、お前ら」
ギールが告げると、彼に心酔した凶戦士たちが一斉に同じような笑みを浮かべる。
それは獰猛な肉食獣が見せる笑みと似ていた。
圧倒的捕食者が見せる、命乞いさえ許さない笑みだった。




