魔王
黒髪の青年だ。
黒く長いローブを羽織って、無表情で俺を見ている。
「いかにも」
青年が言った。
「我は魔王。魔王エンリケ」
威厳ある声を響かせ、俺の反応を確かめるように視線をよこす。
「なるほど。貴様か? エンペラースケルトンを倒したのは」
「そうだ」
「そうか」
答えると同時だった。
目の前に拳があった。
殴られた。
気づくと同時に、地面に叩きつけられていた。
「いってっ!?」
鼻血が出る。
ダメージ!?
もう数年は忘れていた感覚。
俺はなぜか感動し、その場で「ほぁぁ……」と間抜けな声を漏らした。
「ほぉ、死なんか。いいな、貴様」
そして魔王は魔王で何か感動したのかそんなことを言った。
「貴様、もっと強くなれ。我の相手がまともにできるように。それまで、殺さないでおいてやる」
魔王エンリケはそんな勝手なことを言って、気配を消していく。
「期待しているぞ、人族。我が城にて待つ。必ずたどり着け」
そして魔王の気配は、完全に消えた。
「あ、あ、あれが……魔王……あんなもの、どうやって……」
気づくと、アンナとエリーが外に出てきていた。
魔王の圧力が消えて、急いで出てきたのだろう。
「……ッ!? リクド! 無事か!?」
エリーが駆け寄ってくる。
「ああ、大丈夫だ」
俺は上体を起こし、魔王が消えていったほうを見る。
「……え?」
「どうした?」
困惑した声を出したエリーを見る。
「どうしてあんた、笑ってるんだ」
「え? 笑って……あ、本当だ」
俺は口元に手をやり、自分が笑みを浮かべていることに気づく。
ぬるりとした鼻血は親指の腹で拭う。
久しぶりに感じた痛み。
やっぱりいた。
レベル999の俺相手に、ダメージを与え、まともに戦える相手が。
エリーは困惑していたが、これは喜びだ。
喜びから来る、笑みだった。




