エリーの実力
「ここが、エスジックが言っていたダンジョンか」
「そうみたいね……」
あれから二時間後。
俺とエリーは廃魔族領にできたダンジョンの前にいた。
巨大な門が出現している。
悪魔や化け物の意匠が施された、地獄の門みたいな形だ。
「なんて禍々しい……」
「これが普通じゃないのか?」
「さすがに普通のダンジョンは見たことがあるでしょ? こんなだった?」
「……違ったな」
ダンジョンは、ただの洞窟の入口。
といった風情のものが多かった。
こんな門型の入口は正直、見たことがない。
「まだ完成していないのにこの魔力量……気をつけて進もう、リクド」
「わかった。順番はどうする?」
「私が先頭を歩く。このレベルになると、罠とかまで生成されてるかもしれない」
「そんなのもあるのか」
「ある。だからこそダンジョンにもランク分けがあって、適正ランク以外に間違って迷い込んだ冒険者なんかは……」
エリーはそこで言葉を切り、代わりに指先を自分の首に当ててスッと切るジェスチャーをした。
「それじゃあ、入ろう。くれぐれも油断しないようにね」
「了解だ」
そして、俺たちは重い扉を開けて、ダンジョンへと足を踏み入れていった。
☓ ☓ ☓
「まずは私が先行する。リクドは後ろからついてきて」
「わかった」
ダンジョンに足を踏み入れると、最初に思ったのは、広い、だった。
前に潜ったダンジョンとは桁違いに広い。
洞窟状になっているが、天井が見えないほどに高い。
苔か何かが発光しているらしく、松明がなくても明るかった。
そして、その広さに見合うだけの“敵”がうろついていた。
「スケルトン系か。これはA級パーティーでもきついだろうね」
エリーの言ったとおり、敵はスケルトンだった。
骨そのもので、盾や剣を持つ戦士型もいれば、棍棒だけを持った野盗みたいなタイプもいる。
数は軽く見積もっても100はいるだろう。
スケルトンの強さはわからないが、とにかく数だ。数が多い。
冒険者のパーティーは、俺が見た限りでは大体が4〜5人だ。
多くても7人ぐらいが上限だったように思う。
合同で作戦に当たる場合はその限りではないだろうが、それでも冒険者パーティーを20か30組集めないと対等に戦えない。
数は脅威だ。
屈強な成人男性でも、戦う意思のある子ども数百人に襲われればひとたまりもない。
ましてや相手は武器を持った魔物だ。
並の冒険者では数匹も倒さないうちに殺されてしまうのは明白だった。
「どうするんだ?」
「ん? どうするって倒すよ」
俺の質問に、エリーは軽く答えた。
「なら、ふたりで手分けして……」
「ああ、そういうことか」
俺が言うと、エリーは何か合点がいったように笑った。
「リクド、あんたは手を出さなくていい。魔獣相手には後れを取ったけど、これでもS級だからね」
そう言うと、エリーは巨剣を肩に担いで構える。
そして、口笛を吹いて目に見えるスケルトンたちを振り向かせた。
「行くよ、リクド。ついてきて」
「わ、わかった!」
エリーが走る。
俺はそのあとをついていった。
もし取りこぼしがあったらいつでも追撃できるように拳を握る。
だが──。
「はあああっ!!」
エリーが巨剣を振るう。
するとスケルトンたちが面白いように寸断される。
剣や盾、棍棒に槍もすべて真っ二つだった。
さらにエリーの恐ろしいところは、スケルトンたちの核らしきものを的確に破壊しているのだった。
頭蓋の中や骨の間など、それぞれ身体を動かす核となる部分が異なる。
それなのに、寸分違わぬ繊細な操作で巨剣を操り、次々と核を破壊していく。
「強いなエリー! すごいぞ!」
「ふふっ、あんたの足元にも及ばなさそうだけど、褒められると悪い気はしないね」
「本当に褒めてるんだ!」
「わかってる! さあ、じゃんじゃん行くよ!」
そう言ってエリーは速度を上げて突き進む。
巨剣を恐ろしいほどの速度で振り回すから、さながらダンジョン内に竜巻が発生したようだった。
巨剣によって巻き起こされた刃の風がスケルトンたちを切り裂いていく。
強い。これがS級巨剣のエリーの本来の力というわけだ。
俺は感心して、ただ走るだけに専念することにした。
この強さの人間から取りこぼしは発生しない。
少なくとも、今のエリーから逃れられる雑魚敵はいないだろう。
「よーし、とうちゃーく」
スケルトンの群れをたたっ斬って数十分。
広大なダンジョンの先に、巨大な扉があった。
数百匹のスケルトンが守っていた扉だ。
「ここは?」
「ダンジョンボスがいる場所さ。言うなれば、ダンジョンという城の玉座の間ってところ」
「なるほど。強いヤツがいるんだな」
「そう。そしてダンジョンを破壊するにはダンジョンボスを倒し、ダンジョン自体のコアをぶっ壊す。そうしてようやく、ダンジョンが沈静化するんだ」
エリーの説明に頷き、俺たちは巨大な扉をふたりで開ける。
ここにダンジョンボスがいるというなら、躊躇う必要はない。
「気合入れるよ、リクド。こんな魔力量の多い場所にできたダンジョン、ボスもきっと手強いだろうからね」
「ああ。だが、正直エリーだけで大丈夫なんじゃないか。俺の力なんて……」
話しながら中に入ると、内側からゴォっと風が吹いた。
いや、実際に吹いてはいない。
感じたのは、威圧的で強大な気配だ。
「私だけで大丈夫なら、エスジックさんに抗議してたさ」
中にいたのは、巨大なスケルトンだった。
両手に剣を握り、鎧を着たスケルトン。
「スケルトンキング。相手にとって不足はなさそうだ」
エリーは言って、巨剣を担いで構える。
「オォォォオオオッ!!」
それに呼応するように、スケルトンキングも吠えるのだった。




