エスジックの審査
(まずは耐久力。S級以上の魔物との戦いは、A級までとは別次元になる。儂の攻撃1割で、ちょうどデミドラゴンの尻尾と同じ威力。さあ、受け止めきれるか)
戦闘が始まると同時、エスジックは重い鉄棍を構えたまま前に疾走する。
速い。常人では目で追うことすら不可能。
そしてリクドに接近したエスジックは鉄棍を振り下ろす。
1割とは言っても、常人なら死ぬ。
冒険者でA級だとしても、耐久力に自信がないものは死ぬ。
それほどの威力。
それがSS級の力だ。
S級以上の実力があるならば、攻撃を武器で受け止める。流す。避けるなどの選択肢が取れる。
そのどれも出来なさそうなら寸止めする予定だった。
しかし、リクドはジッとエスジックの攻撃を見ていた。
鉄棍の軌道を、しっかりと確かめているように見えた。
(小僧……まさかそれほどしっかりと見えているのか?!)
力を抜いているとはいえ、かなりの速度だ。
今でこそSS級候補筆頭であるエリーでさえ、審査時点では半ば勘で避けていた部分もある。
(いや、違う? 動き出さない。まさかこいつ、まったく見えていないのか?)
実力不足な人間の場合、あり得ることだ。
まったく見えておらず、ただ呆然と突っ立っているだけ。
止めるか?
エスジックの頭の中に過ぎる選択肢。
だが、ふたりのギルマスの推薦。そして実際に依頼に同行したというエリーの忠告。
「はぁっ!」
エスジックはコンマ数秒迷ったあと、鉄棍を振り抜くことにした。
死んでしまったら、そこまでのこと。
しかしその直後、エスジックは驚愕に目を見開いた。
「なっ……!?」
リクドが鉄棍を受け止めていたのだ。
いつの間に、というのがエスジックの素直な感想だ。
手を出した瞬間が見えなかった。
そもそも素手で受け止められることが初めてで、ほんのわずか困惑させられる。
(そういうことか……こいつは)
エスジックは鉄棍を勢いよく引いて後ろに下がる。
(恐ろしく、強い……)
エスジックの顔には笑みが浮かんでいた。
舐めるなと忠告されたのに、1割の力程度で試してしまった。
こいつはそんな力では通用しない。
全力を尽くさなくてはいけない。
SS級、剛嵐のエスジックは再び鉄棍を構える。
そして、地を蹴って飛び出した。
「はぁああっ!」
気合の声とともに鉄棍を振る。
鉄棍が風を切る。踏みつけた地面が振動し砂煙を舞わす。
リクドは、避けた。
紙一重で、鉄棍とエスジックの動きをしっかりと見ながら避けた。
「うぉおっ! はっ! はっ! やっ!」
返し刀で上に跳ね上げた鉄棍も避けられる。
わずかに身体を引いて、今度は突き。
鉄棍でありながら、あまりの速度で触れたら斬れてしまう。
それほどの速さの攻撃だ。
それなのに、リクドには当たらない。
すべて紙一重で避けられる。
(この小僧! すべて見えてやがる!)
SSS級にさえ通用するエスジックの鉄棍術。
身体は衰えるどころか常に全盛期に近い。
だというのに、当たらない。
「ふはっ、ふはははは!」
エスジックの全身が膨らむ。
筋肉が膨張しているのだ。
恐ろしい笑みを浮かべたエスジックによる、まさに剛嵐としか言えないような凄まじい攻撃だった。
だが、それでもリクドには届かない。
(こいつは化け物だな……)
思う。そして──。
「はあああああっ!!」
エスジックは修練場を破壊するつもりで、渾身の力を込めた一撃を打つ。
一撃必殺。
凄まじい耐久力を誇るダイヤモンドドラゴンさえも叩き潰し、屠った必殺の振り下ろし。
が──。
「すごい一撃だ」
「……はんっ、なら止めるんじゃねぇ」
リクドはそれを受け止めた。
左手一本で、SS級の必殺の一撃を止めて見せたのだ。
鉄棍を引こうとしても動かない。
気づけば、リクドの平手がエスジックの胸の中心にあった。
「……ヲッ……」
“あった”と思った刹那、エスジックは後方に吹っ飛んでいた。
リクドの姿が遠くなり、直後、何かに背中を強打して息が止まる。
「かはっ……?!」
エスジックは地面に落ち、倒れる。
起き上がることもできない。
意識が遠のいていく。
(こいつぁ、本当にとんでもない……逸材……)
そしてエスジックは、ただの一撃で意識を失わされてしまったのだった。




