SS級の見立て
強くはあるが、S級に上げるべきかと言われれば疑問符がつく。
それが、エスジックがリクドに対して持った、最初の印象であった。
「本当に武器も防具も装備しないのか?」
「ああ、装備したくてもできないんだ」
目の前の男、リクドが言う。
冗談を言っているようでも、こちらを舐めているわけでもなさそうだ。
「そちらが武具なしでも、こちらは使うぞ? いいな?」
「もちろん。手加減なんてしたら俺の実力はわからないだろう」
リクドの言葉にエスジックは笑みを浮かべて頷く。
なるほど、道理はわかっている、と。
ならばあとから自分は無手だったと言い訳することもあるまい。
何も徒手空拳の冒険者はリクドに限らない。
それでも鉤爪やグローブなどを着用するのが常識ではあるが。
SSS級の“ヤツ”にも通じるものがある。
しかし果たして、ヤツほど強いかどうか。
(おっと、それを確かめるために儂がいるんだった)
エスジックは苦笑し、鉄棍を構える。
ここはギルドの裏手にある修練場だ。
S級に上げるかどうかの昇級試験はだいたいSS級がやる。
たまにSSS級が受け持つこともあるが、それは相当期待された冒険者に限る。
SS級のエスジックが来た。
ということは、リクドへの期待値はそこまででもない。
それでも、油断はしない。手加減もしない。
そんなことをして審査をパスしても、長続きしないのは明白だ。
時々、同門や血縁のしがらみで実力不足のままS級に上がるものもいるが、少なくともエスジックにおいてはそんなことは一切ない。
つまり、リクドは本当に実力がなければS級に上がることはない。
ということだ。
「ギルマスふたりからの推薦だ。この街のアンナとお前さんが登録した街のギルマスであるレジオ。そして実績。これが本当のものか確かめるために儂が来た。いいな?」
「ああ」
「武器なしも防具なしも負けたときの言い訳にはならん。そして仮に死んだとして、審査員のよっぽどの不正がないかぎり、不問にならん。これも覚悟の上だな?」
「ああ」
リクドには焦りも緊張も見られない。
自然体だ。
エスジックは頷き、立会人のひとりとしてついてきていた巨剣のエリーを見る。
「お前から見てどうだ、エリー」
「彼の強さは本物です。強すぎて、私では測れません」
「ほぉ、お前さんほどの冒険者が言うほどか」
エリーをS級冒険者として引き上げたのは、他ならぬエスジックだった。
当然、その実力は文句なし。実績もどんどん上げている。
デミドラゴンも倒し、この大陸内で今一番SS級に近い冒険者だ。
そのエリーをして、そう言わせる実力。
たぶん、自分は目の前の男の実力を見誤っている。
エスジックはまず、そう認識を改めた。
修正力は冒険者にとって大事な資質のひとつだ。
驕り、油断し、冒険者としてどころか人生からドロップアウトしたものも多い。
「これは、思ったよりも気を引き締めていかんといけんな」
エスジックは相棒の鉄棍を強く握る。
ざわり、と周囲の空気が揺らいだ。
「あんたを倒せば、実力を示したことになるのか?」
「いや、そこまでしなくていい。事故以外での殺しはなし。相手を気絶させるか、まいったと言わせること。時間稼ぎにまいったを言わないのはなしだ。あとは何でもいい。実力を示せれば。シンプルだろう?」
「ああ、シンプルでいい」
「それじゃあ、始めようかリクド君。君の実力を見せてくれ」
言って、エスジックは鉄棍を肩に担ぐ。
剛嵐の瞳は、もう目の前のリクド、つまり獲物をロックオンしていた。




