魔王復活とSS級の男
「魔王復活はほぼ確定事項となった」
魔獣フロスを倒した翌日、ギルドに到着した俺にアンナがそう言った。
「なにがあった?」
「各地に散っているSS級やSSS級の冒険者たちから同じような報告がなされた。曰く、魔王としか思えない巨大な気配が出現した、とな」
「なるほど……じゃあ魔王の討伐隊が組まれるのか? 強いヤツと戦えるなら俺もぜひ参加したいが」
「いや、それはまだだ。冒険者たちの意見は信頼に値するものだが、肝心の魔王の居場所が掴めていない。拠点になにがしかの幻影魔法がかけられていると思われる」
「うかつに動けないのか」
「そういうことだ。SSS級の冒険者たちをむやみに集めて右往左往させたら、その間に魔物たちによっていくつ街が滅ぼされるかわからん」
「なるほど」
「それに勇者も見つかっていないしな」
「そうなのか?」
「ああ。勇者が持つ聖剣は神聖国キドナが所持しているが、勇者が現れたときに放つ光が未だに確認されないんだそうだ。キドナの預言者によれば、あと三ヶ月ほど待つ必要があるらしい」
「三ヶ月。長いな」
「長い。だが、待つしかない。魔王を倒せるのは聖剣を持つ勇者だけなんだから。それと、仮に討伐隊が組まれるとしても最低S級以上からしか参加できない。だから、今のお前はどれだけ強かろうと討伐隊には組み込まれない」
「なっ?! なら、俺はいつS級に上がれる? 早くしないと討伐隊に入れず強いヤツと戦う機会が……」
「まあ、焦るな。大丈夫だ。今日、お前の試験をしに審査官がここに来る」
「……今日!?」
「ああ。そいつはSS級の男で、剛嵐のエスジックと呼ばれている。鉄棍を操る相当な実力者だ。あんたは、エスジックを相手に実力を示せばいい」
「示す……勝てばいいということか?」
「そういう試験なら、勝てばまず間違いなく昇級だろうね」
「なら、やることは変わらないわけか」
「そういうことだ。だから今は、実力を発揮できるように集中しておきな」
「わかった」
俺は頷き、ギルドから出る。
遠くのほうで、何かの気配を感じる。
あれが魔王なのだろうか。
だとしたら、相当に強い。
戦ってみたい。
俺の拳が通用するのか、試したい。
「まずはS級に上がらないとな」
呟き、息をひとつ吐いた。
☓ ☓ ☓
リクドのいる街へ向けて、1台の馬車が走っている。
馬車に乗っているのはひとりのみ。
イスにもたれ、目を閉じている。
老人だ。
横には鉄棍が立てかけられている。
剛嵐エスジック。
SS級の冒険者であり、数々の功績を持つ猛者である。
「……騒がしいな」
エスジックは目を開け、前傾姿勢で座り直す。
それから数分後、御者が悲鳴をあげた。
「な、なんでこんなところにワイバーンが?!」
エスジックが数分前に気づいたのは、ワイバーンの群れだった。
「やっと追いついたか。愚鈍だな」
「ひっ、ひぃっ」
御者は震え上がりムチを振って速度を上げようとしたが、エスジックはそれを止める。
「止まれ。このままではどうせ追いつかれる」
「え? は、はいぃ……!」
SS級の冒険者に止まれと言われて逆らうような御者はいない。
それがたとえ凶悪な魔物に追われている最中と言えどもだ。
「ギャッ! ギャアッ!」
「ギャギャアッ!」
馬車から下りたエスジックを見て、ワイバーンたちが騒ぎ立てる。
獲物だ。
老人だが、餌であることには変わりない。
ワイバーンたちは油断していた。
その老人がどれほどの実力を持っているのか、理解していなかった。
「やかましいぞ、トカゲ鳥」
エスジックは鉄棍を構え、ワイバーンの群れに向かってぶん投げた。
「ギャッ……!?」
鉄棍は1匹のワイバーンの心臓を貫き、重力に従って落ちてくる。
落ちてきた50キロ以上ある鉄棍をなんなくキャッチしたエスジックは、ワイバーンたちを手招きする。
「かかってこい。新人の元へ行く前に、それなりに準備運動ができそうだ」
「ギャギャー!!」
仲間を殺され怒り心頭のワイバーンたちが急降下してくる。
「ふんっ!」
「ぎゃっ?!」
エスジックは近くにあった木を蹴って飛び上がり、鉄棍で先頭のワイバーンの頭をぶっ叩く。
それで終わりだった。
ワイバーンは頭の中身をぶちまけて墜落する。
そしてエスジックは、そのままワイバーンたちの背中や頭を蹴り上げながら空中で戦い続ける。
相手の土俵で、圧倒的な強さでワイバーンたちを蹴散らしていく。
「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
「ギャアッ!?」「グギョッ?!」「ギャギャー!」
鉄棍が踊り、ワイバーンたちの身体が消し飛んでいった。
ワイバーンたちは己や仲間の背や頭に乗るエスジックを捉えることができず、とうとう最後の1匹まで追い詰められる。
「ギャギャッ!」
そして最後の1匹は逃げようと反転した。
それが間違いだった。
「ぎ……?」
胸に衝撃。
見れば、自らの胸から鉄棍が生えていた。
そしてそれはすぐに引き抜かれる。
「かっ……ぎゃ……」
血が噴き出す。
仲間たちも同じように血を噴いていた。
錐揉み状に落ちていくワイバーンたち。
血が飛び散る。
それはまるで血の雨を降らす嵐のような光景だった。
「…………剛嵐……」
馬車の隅で身を縮めていた御者が呟く。
☓ ☓ ☓
「さて、行こうか」
「は、はい」
ワイバーンを倒したあと、エスジックは己のマジックバッグに戦利品であるワイバーンたちを詰め込んだ。
SS級の冒険者だ。
ワイバーン50匹程度では限界量に達したりしないマジックバッグを使っている。
(この人がSS級だとしたら、この上はどんな人外たちばかりなんだ……)
御者はそんなことを考えながら、再び馬車を走らせるのだった。




