A級の規格外
「立てるか」
「あ、ああ……」
リクドと名乗ったそいつは、とんでもなく強かった。
武器も持たず、防具すら着用しておらず、ただ体術のみ。
それも、ただの一撃であの魔獣を屠った。
S級としてかなりの実績を誇るエリーでさえ敵わなかった、あの魔獣を。
「この剣、君のだろ」
「あ、ありがとう……」
並の男では持ち上げることさえできない巨剣を、リクドは軽々と片手で持ち上げてエリーに返してくる。
「なあ」
「ん?」
「あんた、本当にA級なの? S、いやSSS級辺りが身分を偽ってるわけじゃなくて?」
「ああ、俺は本当にA級だ。SSSなんておこがましい。まだそこまでの実績はない」
いや、もうとっくにSSS級の実力はあるだろ。実績だって申し分ないはずでは?
エリーはそう思ったが、実際SSS級は全員が有名人だ。
その中に、この目の前のとんでもない男はいなかった。
リクドなんて冒険者、聞いたこともない。
「俺は普通の、みんなと同じく、強くなってSSS級になりたいただの冒険者だよ」
「いや……」
絶対に普通ではない。
エリーは心の中で突っ込みながら、リクドとともに街へ帰るのだった。
☓ ☓ ☓
「魔獣フロスの討伐、確認した。魔獣の牙など初めて見たぞ」
「……私もです」
ギルドに帰り討伐の報告をする。
討伐の証に持ってきたフロスの牙を、アンナとリムがマジマジと見つめていた。
「やっぱりおかしいですよ。あの魔獣を単独で倒すなんて……この人もうSSS級にあげちゃっていいんじゃないですかね、ギルマス」
横ではリムが呆れたような顔をして俺を見ていた。
エリーにしろリムにしろ、俺をSSS級にしたがるが、俺にはまだそんな実績はない。
実力だって、SSS級の人たちに会ってみなければ自分がどれぐらいの位置にいるのかわからないしな。
「私に言うな。第一、そんな権限があるならとっくに上げとるわ」
リムに言ったあと、アンナが俺を見る。
「それにしてもよくやったな。一般への被害はほぼなし。冒険者にしても、魔獣相手に死者なしは素晴らしい成果だ」
「それはエリーのおかげだ。彼女が他の人を逃してなければ、俺は間に合っていなかった」
「いや、そんな……私は結局何もできなかったし……」
「S級が謙遜するな。実際、お前の足止めで偵察パーティーと商人は助かったんだから」
回復ポーションのおかげで怪我がすっかり良くなったエリーに、アンナが言う。
「まあ、こいつ相手ならそんな気分になるのもわかるけどな」
「なんで俺を残念そうな目で見るんだ」
「褒めてるんだよ」
「絶対嘘だろ」
アンナは苦笑しつつ、改めて俺たちを見た。
「ともかくリクド。お前はもうS級に上がるための実績を手に入れたも同然だ。王都のギルドから審査官が来るのも近いだろう」
「審査官?」
「ああ、S級に上がるために実績はもちろん、その実力が本物か調べる人が来るのさ。ほとんどは現役の冒険者で、当然Sより上のSS級が来る」
「なるほど。その人に実力を示せばいいわけだな」
「そうだ。それ自体については、あまり心配していない。問題は……」
「逃げた魔族か」
「頭の痛い問題だよ。捜索部隊を編成して探させているが、所在がまったく掴めない。痕跡もだ。どこで暴れるかわからないから、ずっと警戒が解けないままだ」
「俺としては、それに加えて組織や魔王についても気になるがな」
「それについてもうちで調べさせている。だが手がかりはほぼない。魔王の所在地もお前の言う組織も、どれもが相当な難題だからな」
「そうか……」
「なんにせよ、お前にはもっと働いてもらうことになる。魔獣にしろ、なんにしろ、お前以外で対処できる人間がいない」
「そんな気はしてたから構わないが、SSS級は来ないのか?」
「ああ、ほとんどのヤツに振られたよ。といっても、時期が悪くてこちらにすぐ向かえないということだったからな。もうしばらく耐えれば、魔族討伐部隊も編成されるだろうし、お前が得た廃魔族領に魔族が集まるという襲撃にも備えることができる、はずだ」
「やることが多いんだな」
言うと、はぁ、とアンナがため息を吐いた。
「こう見えて、ギルマスは大変なんだ。お前がバカスカ倒してくれるから、まだマシなほうだとは思うんだけどな」
「まあいい、今は一旦仕事がないみたいだから、俺は宿に戻るぞ。あまり気を張っててもいいことはなさそうだ」
「ああ、緊急時にはうちの職員を向かわせる。宿は変えてないな?」
「大丈夫だ。じゃあ、またあとで」
俺はそう告げてギルドを出ようとした。
すると、後ろから声をかけられる。
「あ、あの……」
「ん? どうした、エリー」
声をかけてきたのはエリーだった。
少し緊張しているのか、顔が強張っている。
「お礼を言うのを忘れてた。ありがとう、リクド。助かった」
「……ああ、どういたしまして」
それに応えて、今度こそギルドを出る。
背中に、エリーの視線を最後まで感じていた。
☓ ☓ ☓
「けっこうやれるつもりだったけど、アタシはまだまだだな」
ギルドに残ったエリーが呟く。
「あいつは規格外だ。参考にしようとするなよ」
「ああ、わかってる」
言いつつ、エリーは拳を握る。
S級にいることで満足してはいけない。
もっと強く、魔獣だろうと屠れるほどに強くなる。
去っていったリクドの背中がまだ見えているように前を見据えながら、エリーはそう誓うのだった。
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