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VS魔獣フロス

「ふんんんっ、ぬぁっ!」


 俺は魔獣フロスを投げ飛ばした。


「がっ!? ぐっ?! げっ?!」


 フロスは平原を転がり、すぐに体勢を立て直す。

 威嚇する顔は恐ろしい。鬼のようだ。


「でかいな……」


 フロスはライオンに似ていた。

 紫色の肌と体毛に筋肉の鎧で覆われた巨躯。

 体重は1トンを超えているだろうか。


 ライオンに似ているが、その身体は俺の知っているライオンの5倍は大きかった。


 前世で見た10トンダンプほどのデカさがある。


「あ、あんた……A級ってどういうこと? A級なら逃げるんだ。こいつはS級でも勝てない相手なんだから」


 背後で見知らぬ女戦士が言う。

 こちらへ向かう途中に会った冒険者たちが言っていた、S級の戦士で間違いないはずだ。


 ボロボロになるまで戦っていたのだ。

 S級であれば、A級たちを犠牲にして逃げることも可能だっただろうに。

 間に合わなかったと言えばいいだけ。


 だがそうしなかった。

 自分を犠牲にするのは感心しないが、必死で逃がすための時間を稼いだのだ。


 俺はこういう人を尊敬する。


「大丈夫だ。あとは俺に任せて休んでくれ」

「あ、アタシはS級、巨剣のエリー。S級のアタシが敵わなかったんだ。だから、あんたも早く……」


 女戦士、エリーが名乗ったところでフロスが動いた。


 視界から消えるような速度だ。


 巨体が消え、気づいたときにはあの凶悪な顎で砕かれる。


「ぐがぁっ!」

「ふっ!」


 目の前に出現したフロスが前脚を振るう。

 俺はそれを片手で弾いた。


 手がビリビリと痺れる。

 なるほど、これは強敵だ。


 フロスは速くて強い。


 シンプルだが、それだけで街をひとつ壊滅に追いやれる。


 S級冒険者すら赤子扱いするような強さ。


 無意識に、口角が上がっていた。

 強者を前に、心が躍る。


「来い」

「グルガァアッ!!」


 フロスが突進してくる。

 その速度はS級冒険者以上でないと視認すらできないと言われている。


 そこっ──!


 俺は考えるより先に手のひらを突き出していた。


「グガッ!?」


 掌底を顔の側面でまともに食らったフロスは、また平原を転がる。


 だが、次の瞬間には消えていた。


 体勢を立て直す動きと同時に飛び出したのだ。


 威嚇などの無駄な行動はしない。


 俺を仕留めるための、フロスの最適解の動き。


 油断や慢心などない。強者としての本能、動き。


「……っ!?」


 エリーが息を呑む気配がした。何かを言う暇さえない。


 横を、フロスが駆け抜けたのだ。


 つまり、俺の背後にフロスはいる。


 速度、力、申し分ない奇襲。


 ──相手が俺じゃなければ。


「……ッ?!」


 俺はフロスの牙が届く前に一瞬で振り向き、素早く拳を握った右手を高く掲げる。


 フロスは、自らが敵の──俺のテリトリーに入ってしまったことに気づいただろう。

 だがもう遅い。


「ふんっ!!」


 握った拳を小指側から落とす技『鉄槌』。


 俺は鉄槌を、フロスの脳天に落とした。


「──ッッッ!?」


 ドンッ──と凄まじい音が響く。


 フロスは地面に埋まるほど強く叩きつけられた。


 それで終わりだった。


 魔力体である魔獣フロスは、そのまま牙とわずかな体毛だけを残して消失するのだった。


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