協力者
「ぎゃあぁっ!?」
「ぶぎいっぃいぃっ?!」
結界を入ってすぐ、俺は争っていたゴブリンとオークたちをぶん殴る。
本気じゃなくても、軽く殴るだけで死んでいく。
「凶暴化してると言っても、まだレベルも低いんだろうな」
分析しつつ、先へ進んでいく。
「ぎぎぎゃああっ!?」
「ぶぎゃがあっ!?」
魔物たちが入口に殺到していたため、俺はダンジョンを数メートル進むだけですでに20匹ほどの魔物を倒していた。
この分だと、100メートルも進むころにはすべての魔物を倒せてしまいそうだ。
そう考えたときだった。
「ん?」
ドンッ、と地面が揺れるような音と振動がした。
直後、背後の岩肌が崩れ、出入り口が塞がれる。
「退路を絶たれたか。思ったより早かったな」
出入り口を塞がれるのは、アンナからの助言で想定内だった。
まあ助言を受けたからといって、俺にできることに変わりはない。
ひたすらこの身体ですべてをぶちのめしていくだけなのだ。
ダンジョンの中には不可思議な光源があるらしく、出入り口が塞がれて暗くなったのも一瞬だった。
ボゥッ、と周囲が光りだす。
「ぎぎゃっ?!」
「ぶぎっ?!」
「ぎゃぁっ!?」
「ぎぎぶぅっ?!」
俺はダンジョンを進む。
ほぼ一本道だったため、出てくる魔物を殴って直進した。
そうしてしばらく歩いていたときだった。
目の前に巨大な光が発生した。
それは火球だった。
巨大な火球。
「ファイア・インパクト!」
詠唱と同時に火球がまっすぐ飛んでくる。
狙いは考えるまでもなく俺だ。
以前見たファイアボールよりも遥かに威力がありそうだ。
俺は拳を固めて構える。
そして──。
「ふんはっ!」
火球が迫るタイミングに合わせて拳を突き出す。
ドパンッ──!!
強烈な音とともに、火球が消え失せた。
炎の熱気が、頬と岩肌を撫で、ぬるい風となって通り過ぎていく。
「くっ、ははは……本当に魔法を殴ってかき消すとは。信じられないヤツだな」
炎が消えると、前方に人間がいるのが見えた。
黒衣のローブに身を包んだ、杖を持つ男。
「誰だ、お前は」
「俺か? 俺は魔王様に仕える、魔法使いさ」
男が言って、杖の先を俺に向ける。
すると氷の槍が生成されてこちらに向かって飛んでくる。
全部で5本。
それぞれが違う軌道を描いて襲いかかってくる。
俺はそれらを避けずに“取った”。
氷の槍を掴んで握る。
するとガチガチに凍った氷は、あっけなく粉砕された。
「殴るだけじゃない、か。どうやってやってるんだ? 手にアンチマジックをかけてるのか?」
「いや、殴ってるだけだ」
「くくく、バカみたいな冗談だ。いや、案外本当なのか?」
「逃げ出した魔族がいるだろう。ゲルゴールといったはずだ。ヤツはどこにいる」
「ふっふふ、答えるわけがないだろう。口を割らせたければ、俺が喋りたくなるまで痛めつけることだな」
「なら、そうさせてもらう」
どんな攻撃魔法が来ようと関係ない。
俺は足を一歩踏み出し、そして爆炎に包まれた。
「ははーはっはっは! バカめ! 攻撃魔法は消せても、罠魔法は防げないようだな!」
楽しそうに笑う魔法使いに、俺は白煙の中から視線を向ける。
痛くも痒くもない。
だが、こういうことを仕掛けてくる相手がいると知れるのはいい。
「……は? な、なぜ傷を負っていない? あれはA級の魔物さえ仕留める魔法なんだぞ?」
「負わなかったんだから仕方ないだろう」
言いながら、俺はもう一歩足を踏み出す。
すると再び何かを踏んづけた。
「ん?」
それはトリモチのような、粘着質な泥だった。
「クソ、何の魔法ならかき消されずに効くんだ。マッドスタンプが効いているうちに……」
どうやらこれはマッドスタンプというらしい。
今やられているように、相手を拘束する魔法だろう。
こういう使い方もできるのは、素直にすごい。
ひとつの魔法だけではなく、多様な魔法を使えるほうがきっと魔法使いとして優秀に違いない。
俺は偏見でそう思った。
「そうだ、窒息させれば……マッド・ウェーブ!」
「おぉっ?!」
魔法使いは判断が早かった。
有効だと思った手を思いついたと同時だろう、俺に放ってきた。
マッド・ウェーブは大量の粘着質な泥が文字通り波のように全身を覆う魔法だった。
「……ぐっ、く……」
顔を覆われ、息がしづらい。
なるほど、これはかなり有効な手だ。
「じわじわと苦しんで死ね、化け物がっ」
だが──。
「ふんっ……ぐぅっ、あぁっ!」
「なっ……?!」
俺は粘着質な魔法の泥を力ずくで引っ剥がした。
顔の泥も掴んでむしり取る。
「魔法は終わりか? だったら、今度はこっちの番だな」
「な、なんで……あれが引きはがせる……ま、待て! くそっ!」
自由になった俺は再度発動されたファイア・インパクトとマッド・ウェーブを避けて、魔法使いに迫る。
そしてその顔を、手加減して殴りつけた。
「げぶはふぁぁっ?!」
それでも魔法使いは吹っ飛び、岩肌に背中を強かに打ち付けて地面に倒れる。
「く、くそ……あいつの言ったとおり、本気で規格外……こいつは、き、危険だ」
魔法使いは身体を起こそうとしながら、ブツブツとなにかを言い続ける。
「さて、あいつの居場所を吐いてもらうぞ。それから、魔王についてもな」
俺は言って魔法使いの胸ぐらを掴む。
だが次の瞬間、魔法使いは嫌な笑みを向けてきた。
直感が警鐘を鳴らす、鳥肌が立つような嫌な予感だ。
「光栄に思え化け物。ともに死んでやる! 魔王様! 我らが神よ! 永遠なれ!」
魔法使いが叫んだ瞬間だった。
魔法使いの足元に魔法陣が展開。
そして──視界が白い閃光に包まれた。




