罠だとしても
「くそっ……」
魔族を取られたことや魔王復活の情報など、様々なことがあった翌日だった。
ギルドに行くと、ギルマスのアンナが机を叩いて、目の前の紙を睨みつけているところだった。
「どうしたんだ」
「……リクドか。こいつを見てくれ」
「ん?」
俺は渡された紙に目を通す。
そこには、昨日捕縛部隊に護送されていった魔族が逃亡していたことが記されていた。
捕縛部隊は馬車ごと燃やされ、全員の死亡が確認された、ということだった。
「逃がしたのか。腐ってもエリートだったんだろう?」
「……ああ。だから襲撃者も相当な実力者、もしくは魔族が本気を出したか」
どちらもありそうな話だ。
捕縛部隊はエリートと言っていたが、ステゴロは強そうな感じはしなかった。
もちろん俺基準だから当てにはならないが、それでも一応はそれなりの実力者だろうと思って魔族を譲ったわけではあったが──。
「まさか逃げられるとは」
「不甲斐ない。エリート意識だけが肥大化して、実力を鍛えていないというのは本当だったらしいな」
「あの拘束した魔法も微妙だったのか?」
「いや、あれは相当な魔法、のはずだ。それでも魔族を拘束するには不十分だった、と考えるしかなさそうだ」
となると、やはり魔族はぶん殴るしかなさそうだ。
逃亡した魔族、ゲルゴールは俺にとってはワンパンで済む相手だが、一般市民にとっては脅威であるらしい。
ならば、早く捕まえないと被害が拡大するかもしれない。
「ヤツがどこに逃げたのかわからないのか?」
「……わかる」
「わかるのか。どこだ」
「だが、十中八九罠だ。間違いなく」
「罠でも構わない。あいつを放置するほうが危険なんだろう」
「……そうだ。そしておそらく、お前しか解決できないんだろうな」
アンナが苦々しい顔で言った。
そんなに俺を行かせるのが嫌なのだろうか。
「お前のような貴重な人材を、罠とわかっているところに送り込むしかないなんてな。うちの人員も連れていけたらいいんだが、足手まといにしかならないのはわかりきっていることがまた腹立たしい」
「……ああ、そういうことか」
「偵察隊が持ってきた情報によると、襲撃場所からほど近い低級ダンジョンに血痕が続いていたらしい。わかり易すぎるほどにわかりやすい痕跡だ」
「なるほどな」
確かにそれは罠だな。間違いなく。
「さらに結界魔法陣を敷いてきたらしいが、中の魔物どもが凶暴化して外にあふれようとしているということだ。魔族の魔力に中てられた結果だろう」
「そいつらがあふれれば、近くの村や街は」
「お前の考えているとおりだ。この街ほど冒険者などの人材がいない村などは滅ぼされる可能性が高い」
「ならやはり、俺が行くべきだな。一刻も早く」
「……ああ、すまない」
「謝ることはない。なすべきことをなす。それは俺のやりたいこととも合致してるしな」
俺は言って、近くにあった地図を取って広げる。
「場所を教えてくれ、アンナ。それと魔族を見つけたらどうする? もう情報は取れないかもしれない。殺すか?」
「……本当は捕縛が望ましい。魔王の居城など、欲しい情報は山ほどある。だがお前以外に抑えられないと判断したら……」
「わかった。その場合は俺の判断で必ず始末する」
「それから、ヤツは単独で動いている可能性もあるが、先程も言ったように協力者がいる可能性も高い。それが人間か魔族かはわからないが相当な実力者というのは間違いない。気をつけろよ、リクド」
「ああ、わかった」
「リクドさん、お気をつけて」
印をつけた地図を丸めて出ていこうとすると、受付嬢のリムを始めとした職員たちが俺に向かって一斉に頭を下げた。
「ああ、行ってくる」
ただ楽しくて鍛え上げた身体だ。
それでもこいつが俺の目的のためだけではなく、世話になっているみんなの役に立つのなら、存分に使うことにしよう。
そして俺は、魔族がいると思わしきダンジョンへと向かうのだった。




