魔族への尋問
「いい気になるなよ、人間」
「いい気になってなんかないさ」
俺は今、地下牢にいる。
目の前には胴体を縄で縛られた魔族。
左頬を腫らしているのは、俺が殴ったせいだ。
もちろん手加減はした。
「もうすぐ、お前たち人族は再び魔族の奴隷となる。食料として、労働力として」
「そんなことをさせるつもりはないが」
「つもりがなくても、そうなる。新たな魔王様のもと、我らの楽園が築かれるのだ!」
魔族は嬉しそうに言って、嘲笑と視線を俺に向けてくる。
「でもお前、死にかけてたじゃないか。最初に会ったとき、腹を空かせて。見捨てられたのか?」
「みすっ……!? ふ、ふざけるな! 私はたまたま単独行動中だっただけだ! 私は先遣隊で、あの魔族領を奪い返すためにやってきたのだ!」
「お前ひとりで?」
「ふん、これだからバカで愚かな人族は。私は先遣隊だと言っただろう。これから本隊がやってくる。貴様ら人族では決して敵わない凶悪な魔族がな」
「それは魔王の命令なのか?」
「いや、命令ではない。だが魔王様が復活なさったおかげで我々は再び力を手に入れた。それはつまり私たちに暴れ、支配しろという命令に他ならない。この漲る力で人族を嬲り、痛めつけ、そして食料奴隷とするのだ」
「……うーん、拡大解釈が過ぎるような。しかし魔王か。やっぱり強いのかな。でも魔族がこいつぐらいだとしたら……」
「…………」
俺が考え事をしている間、魔族は何やらゴソゴソと動いていた。
何かをしているが、特に止める気もない。
「ちなみにだが、人間。貴様には私の名を知る権利をやろう」
「いらない」
「私の名はゲルゴール。高貴なる第五階魔族にして……ん? 貴様、今いらないと言ったか?」
「ああ。それで、魔族の本隊はいつ来るんだ?」
ゲルゴールの顔が歪む。怒りだ。
勝手に名乗るなら別にどうでもいいが、名を知る権利とか言われても普通はいらないだろう。
勝手にしゃべって勝手にキレるのはやめてほしい。
「人間、貴様は今、油断しているな」
「そんなことはないけど」
「私を縛り、圧倒的優位に立っていると勘違いしている。貴様の前任の牢番も同じように思っていたことだろう」
「まあ、縛ってるしな」
「馬鹿め! その縄などとっくに切っておるわ! キシャー!」
バッと縄を解き、ゲルゴールが両手の長い爪を広げて襲いかかってくる。
「ふんっ」
「べんっ?!」
俺は突き出した拳で爪を叩き折って、そのままゲルゴールの顔面を殴る。
ゲルゴールは一瞬ふわりと身体を浮かせたあと、べしゃりと地面に落ちた。
「あ、もっと色々聞こうと思ったのに……」
ついつい手を出してしまったことを反省しつつ、俺は気絶したゲルゴールの頬を叩いて起こそうとした。
そのときだった。
「リクド。尋問は終わりだ」
地下牢にやってきたのは、ギルマスのアンナだった。




