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脱獄しようとする魔族

「まさか、あの封印陣を破ったのか?!」


 アンナが焦った声を出す。


「全員……喰ってやる……全員だ……」


 魔族は言って、手にしたビーニーを頭から丸かじりにした。


「ひっ……ひ……」


 魔族が人を喰らう音が響く。

 受付のリムが悲鳴をこぼし、腰を抜かしてあとずさりする。


「はぁ……これだ。人間……身体に力が満ちる。だが、まだ足りない……」


 魔族はビーニーを一瞬で体内に取り込むと、次にリムを見た。


「柔らかい女の肉……くくく……」

「いや、やだ……」


 リムは震え、首を横に振るが動けない。

 そこに魔族が一歩ずつ近づいていく。


「に、逃げろリム!」

「ギルマスっ……!?」


 アンナがリムと魔族の間に立ちふさがる。

 魔族は強い。だが、アンナのギルマスとしての実力があれば勝てるはずだ。


 しかし、と俺は思う。


 俺はわからないが、この世界の人々にとって魔族とは魔物以上の恐怖の対象なのだという。


 ステゴロに限らず戦闘において、弱気とか気力の萎えは即勝敗に直結する。


 当然、弱気になっているほうが負ける。


 俺の見立てではアンナは強い。

 魔族にも対抗できると信じることができて、いつもの動きを取り戻せば魔族ともやり合える。


 そういうポテンシャルを持っていることはわかる。


 だが、それは一朝一夕で身につくようなものではない。


 だからここは、間違いなく俺の出番だ。


「待て、魔族」

「……? 貴様、あのときの人間か!!」


 魔族がこちらを見たあと、怒りに目を剥いた。

 身体から何かオーラのようなものが噴き出し、ギルド職員や冒険者たちが怯む。


「まずはお前だ、人間。お前から殺してやる! そして喰ってやる!」


 魔族が襲いかかってくる。

 よし、もうリムやアンナは眼中にないようだ。


 人質を取られるとかになったら大変だし、ステゴロの基本は1対1だ。

 一番やる気が出る。


「人間んんんんっ!」


 速い。


 だが──。


「ふんっ!」

「ごべばっ?!」


 俺のパンチが魔族の頬にクリーンヒット。

 魔族の頭部がぐりんっと半回転して、そのまま床に倒れる。


 殺してはいないが、すぐさま起き上がることはなさそうだ。


「なあ、アンナ」

「……はっ!? な、なんだ? どうした?」


 アンナは俺が叩きのめした魔族を呆然と見つめたあと、ハッとして俺を見た。


「こいつから情報を引き出すの、俺がやったほうがいいんじゃないだろうか」

「…………うん、そうだな。お前以上の適任はいない気がする」


 どこか諦めというか呆れというか、そういう気配の返事だったのは気になるが、ともかく俺は許可を得たので魔族を再び地下牢に連れていくことになった。


 犠牲は幸いというか犯罪者のビーニーひとりだけだったが、強そうな集団が属する組織につながるツテがなくなったことだけは、少しばかり残念に思っている。


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