討伐完了と怪しい依頼
「頼みましたよ。頼みましたけど、その日のうちにさっさと片付けてくる人があります~?」
「いや、そんなことを言われても」
ギルドに報告に行くと、俺は受付嬢のリムに理不尽な怒られを浴びせられた。
「しかもこんなに大量に。精々5匹ぐらいだと思うじゃないですか。倉庫がパンパンですよ! パンッパンッ!」
「……なんか、すまん」
ギルドの倉庫には今、俺が納品したモンスターピッグがパンパンに詰め込まれている。
全部数えてみたら80を超えていた。
1匹あたり、1家族の三ヶ月分ほどの肉になるらしい。
それが80匹。本当にちょっと特需すぎて笑えてくるな。
「なにわろとんねん~!……はあ、でもそうですね。リクドさんに当たってもしょうがないですよね。あなたはやっちゃう人ですもんね」
「なんだ、その人を我慢が出来ない子どもみたいに」
「……子どものほうがマシかもしれません。子どもはA級に匹敵する魔物をこんなに倒しません」
「まあ子どもには止めさせたほうがいいな」
俺は言いながら、報酬である金貨を受け取る。
「しかもソロで」
「金貨で300枚。かなり美味しいな」
「ちなみにその報酬、まだ肉を売った際の報酬は含まれてませんからね」
「……ずっとモンスターピッグを狩ってようかな」
「やめとけ、そんなもの宝の持ち腐れだ」
「ギルマス、査定は終わったんですか?」
現れたのはギルドマスターのアンナだった。
疲れた顔をしているのは、モンスターピッグを1匹ずつ査定していたからだろう。
俺のせいといえば、俺のせいなのであまり突っ込んだことは聞けない。
「リクド、お前は本当に規格外なヤツだな」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
「そりゃそうだ。褒めたんだから」
「ギルマス、やっぱりリクドさんはおかしいですよ。普通ソロでこんなに倒せます? それも装備なしで」
「やれたんだから、事実そうなんだろう。お前は何をそんなにキレてるんだ」
「キレてないですっ。事実が飲み込めないから混乱してるだけですっ」
リムは言って、どかっとイスに座った。
それを見たアンナは肩をすくめて、俺に視線を向ける。
「しかし本当にあんたはすごいね、リクド。実は人間を救いに来た神様かなんかなんじゃないか」
「いや、ただの人間だ」
むしろ神には呪いをかけられている側だ。
確かにレベルはカンストまで頑張ったが、この程度ではまだまだ技術やら罠を張られたら勝てないことも多いだろう。たぶん。
「ただの人間、ね。まあいい、あんたには引き続きB級の依頼をやってもらいたいんだけど、その前にひとつ、きな臭い案件が回ってきたんだ」
「きな臭い? いったいどんな……?」
「依頼としちゃあD級だよ。単なる人探しだ。けど、この依頼に関わった冒険者のうち、ふたりが不審死を遂げてる」
「……不審死って」
「ヒョヨルドという男がいる。そいつは一見普通に見えるが、かなり暴力に長けた男だ。男女問わず、相当数の人間を痛めつけている、という噂だ」
「噂?」
「そんな証拠はどこにもないのさ。ヒョヨルドにやられたと言って、依頼人はもう動かなくなった右腕を突きつけてきた」
「……依頼人はヒョヨルドを見つけてどうするつもりなんだ」
「さあね。依頼人の目的はヒョヨルドを見つけ出してその居場所を知ること。そこから先は、ギルドの仕事じゃない。個人的な私怨で冒険者を何人も投じれるわけもないし」
「人探しまでは、手伝ってやれるってことか」
「実際にヒョヨルドが悪党だった場合、治安悪化の原因をひとつ潰せるしな。比較的簡単な依頼、そのはずだったのに誤算が起きた」
「それは?」
「さっきも言ったとおり、依頼を受けたD級冒険者が立て続けに不審死だ。ヒョヨルドの居場所を掴んだという途中報告もない」
「探られていることに気づいたヒョヨルドの仕業か?」
「いや、そうとも言い切れない。なにせヒョヨルドの情報がない。依頼人が作成した似顔絵と、ヤツを目撃したという証言だけだ」
「妙な話だな。冒険者はどうやって死んだんだ?」
「背中をナイフでグサリ。心臓を一突き。とんでもない力の持ち主だ」
「なるほど。だが、ヒョヨルドという確信はないと」
「ああ、ヤツがやったという証拠もない。そもそもヤツがどこにいるのかもわかっていない。妙なことだらけの依頼だ。本来はリクドに頼むような案件ではないんだが……」
「かと言って、依頼の等級を上げたところで無駄に犠牲が出るかもしれないな」
「そういうことだ。D級の依頼にS級をポンポン使うわけにも行かないし、だったら今、S級を目指して実績稼ぎをしている男がいるじゃないかと思ってな」
「そういうことならやらせてもらうが、あくまでも依頼はD級なんだな」
「いや、違う。お前に預ける瞬間からB級依頼へと引き上げる。そしてもしヒョヨルドが冒険者を殺していたなら、その証拠なんかもあったらA級へとさらに引き上げることは決めた」
「なるほど。それならヒョヨルドが黒でも白でも、俺には旨味があるってことか」
「そういうことだ。受けてくれるか、リクド」
「もちろんだ。ヒョヨルドってヤツが冒険者や一般人相手に殺しをしてるなら、叩きのめさないとな」
俺は言って、手のひらを拳で叩く。
それから依頼書を受け取り、まずは依頼者であるビーニーの元へ行くことに決めた。




