ソロでも大丈夫だって
──エルザールの街からほど近い廃墟の地下だった。
そこには、生活居住空間が設けられており、ふたりの男がテーブルを挟んで向かい合っている。
「ギブムが討伐されただと!?」
男のうちのひとり、禿頭が目を見開いて言った。
「……ああ、信じられないがどうやら事実らしい」
応えたのは対面の男だ。
逞しい顎にヒゲを蓄え、口ひげも先端がピンっとした形をしていた。
「くそ……あれでエルザールを落とせると思ったが……やったのはやはり軍か? それともS級以上が現れたか?」
「いや、S級ではなく、つい最近A級に上がった冒険者らしい」
「つい最近? そんなヤツにギブムが倒せるものか。あれは我らの魔力と魔族の力を使って造り上げた化物だぞ」
「だが討伐された。その事実は揺るがない」
禿頭の言葉に口ひげはため息を吐いた。
「ヤツは中級の魔法すら跳ね返す。物理は言わずもがなだ。そんな化物をどうやって……」
「情報については精査させるつもりだ。調査班が知らないS級以上がいたかもしれん」
「そうだな。そのほうが自然だ。A級冒険者ごときに倒せるわけがないのだ。あれは、崩街だぞ」
「……やれやれ。また新たな素材を調達せねばなるまい。厄介極まりないことだ」
「しかしやるしかない。我々の崇高なる目的のために」
「そうだな。我々の崇高なる目的のために」
ふたりの男が自らの心臓に手を当て、席を立つ。
廃墟の地下にはそれきり、人の気配はなくなった。
☓ ☓ ☓
「被害が出ているのはこの辺りか……」
俺は地図を片手に、B級討伐依頼へとやってきていた。
広がるのは畑だ。
広大な土地に、様々な作物が植えられている。
前世で見た野菜なども見受けられて、なんとなく嬉しくなる。
今世で生まれた田舎ではろくなものを食べていなかったから、美味いものが食べられるのなら食べたい。
そんなことを考えていると、畑の近くにあった小屋からひとりの男が出てくる。
麦わら帽を被った、日焼けした壮年の男だった。
「ああ、あんた。もしかして依頼を受けてくれた冒険者か?」
「そうだ。あなたが依頼主のウェドか」
俺が言うと、男──農夫のウェドは頷いて俺の手を掴んで握った。
「ありがとう。この依頼は正直、魔物も手強いし割りに合わないだろう。しかし、儂ら農家にとっては死活問題なんだ」
「ああ、わかった。任せてくれ。イノシシ型の魔物なんだよな?」
「そう、巨大なイノシシだ。それも群れ。森から畑に出てきては大量の作物を喰らっていく。このままだと収穫量が想定の半分以下になっちまうよ」
前情報によると、今回討伐する魔物はイノシシ型の魔物、モンスターピッグ。
単体でC級の強さを持ち、群れになると規模によってはA級に匹敵するという。
いつの時代も数は力、ということだ。
それに加えてモンスターピッグの群れは例年に比べて大きいらしい。
確かにエルザールの今の戦力では、派遣できる冒険者パーティーは少ないだろう。
とはいえ手をこまねいていては、大事な食料が供給できなくなる。
場合によっては飢饉につながることもあるのだ。
「任せてくれ。俺が連中を片付けて、なんならヤツらの肉で食料の危機を特需に替えてやろう」
「おぉ、ありがたい。ところで、あんたの仲間は? さすがにその若さじゃ伝令だろうし、まさかひとりじゃないんだろう?」
「いや、ひとりだが」
「…………」
先ほどまで拝まんばかりに感謝していたウェドの顔から微笑みが消える。
「悪いことは言わん。あんたがいくら強かろうとも、ソロの冒険者に相手出来る数じゃねぇよ」
肩に手を置かれる。優しい手つきだ。
うーむ。大丈夫なんだがなぁ。
「安心、は出来ないと思うが、信じてくれ。悪いようにはしない」
「そうは言ってもなぁ、見たところ、あんたはまだ若い。そんな人間の勇気と無謀をはき違えた行為は年長者として止めねばならんし……」
「まあまあ、ほら、魔物が出てきたぞ。俺は行くから、安全なところに避難しておいてくれ」
俺が指さした方向に、モンスターピッグがいた。
森から出てきて、悠々と畑に向かっている。
自分たちに敵はいないと思っている態度だ。
パッと目視出来るだけで10匹以上。なるほど、これはかなりの群れだ。
「ひ、ひぇっ! あんな数、初めてだ! お、おいあんた! あんたも早く逃げたほうがいい! ありゃ無理だ! S級以上の冒険者じゃねぇと!」
「大丈夫だ」
俺は言って、駆け出す。
「おいっ! バカ、戻れ! ああ、もう! し、死ぬんじゃねぇぞぉっ!」
ウェドの諦め混じりの声を背中に受けながら、俺は最初のモンスターピッグに接敵する。
「ぴぎいぃぃっ!!」
モンスターピッグたちも俺に気づいて咆哮を上げる。
さあ、戦闘開始だ。




