改めて目指し始めるSSS級への道
「だから……なんでそう、余力を残して帰って来られるんだ」
ギルドに戻って報告をすると、ギルマスのアンナが目頭を揉む。
「いや、まあお前ならやれると思ったから依頼したのはそうなんだが……」
呆れたように言われるが、出来てしまったのだから仕方ない。
それになかなかの強敵だったので、俺は満足だ。
「回復魔法は使ったのか、アシュル」
アンナが俺の後ろで気まずそうにしていたアシュルに問う。
対するアシュルは、ゆるく頭を振った。
「そんなの必要なかった。こんな人にアドバイスしてたなんて、恥ずかしい……」
「そんなことはない。俺を案じてくれたんだから嬉しかった」
「ああ、気まで使わせてる。ランクが上なのに、情けない……」
俺のフォローがダメ押しになってしまっている気がする。
うん、余計なことを言うのは止めておこう。
「まあ、なんとなくわかる。だが、こいつが規格外なだけだ。気にするなアシュル」
「悪口なのか、褒めているのか」
「もちろん褒めているさ。おかげでS級に推薦しやすくなったしな」
「それならいい。それにS級への推薦もありがたい」
「こっちとしてはな、お前みたいな人材をBやA級で腐らせておくほうがヤバいんだよ。今はまだ大丈夫だが、魔族が復活したり今回みたいな特殊個体が現れたりしたら、まずS級以上への依頼が決まる。そうなると制限がかかってA級に受けさせることが出来なくなるしな」
「依頼を受けず、勝手に討伐するのはダメなのか」
「ダメじゃないが、実績にならないから単純にもったいない。それにこちらの都合だが、依頼という形で縛ることで遂行可能な冒険者に対処してもらえるようになる。たとえばお前が気まぐれでやっぱり相手しなーい、なんてことになっても強制力がないんだ」
「なるほど。どっちにとっても美味しくないって話か」
「簡単に言えば、そういうことだ」
アンナの言葉に頷きつつ、俺はギルドの倉庫のほうへ視線を向ける。
「とりあえず、話はわかったからギブムを出していいか? アイテムバッグがこいつ1匹でだいぶパンパンになってるんだ」
俺のに入り切らなかった、ただのドスパンジーの分は、アシュルのアイテムバッグに入れさせてもらっている。
そういった点でもアシュルがいてくれて助かったのだが、A級の冒険者に荷物持ち助かったなんて言っても、たぶん侮辱にしかならないだろう。
やはり俺は、口をつぐんでおくに限る。
☓ ☓ ☓
「これが崩街……やはり異常な大きさだな」
アンナが目の前に置かれた小山のようなギブムを見た。
姿形はドスパンジーをデカくしたようなモノだが、改めてその大きさに驚かされる。
「こいつを殴って、返り討ちにしたと」
「合計で3発。強い相手だった」
「……たった3発の間違いだろ。どれだけ規格外なんだ」
「ん?」
そう言うが、今の俺の拳を3発も耐えるヤツはすごい。
同じレベルなら確実に負けていた。
まあ、レベル999の魔物が一匹でも現れたら、俺どころか世界崩壊の危機だ。
「それで、報酬はどれぐらい貰える? S級へは上がれそうか?」
「報酬はまあ、うちの金庫がかなりスカスカになる程度には出せるだろう。S級へは、まだダメだな。実績がもう少し欲しい」
「ネームド討伐ぐらいじゃダメってことか」
「いや、そういうことじゃない。お前は早すぎるんだ」
「早すぎる? 何が?」
「ランクアップが、だ。たった数週間でFからAに上がることも前代未聞だが、ここからSに上がったら、まず間違いなく不正を疑われる。というか今の速度でFからAだけでも不正を疑われてるんだよ」
「そんなことはしてない」
「わかってる。だがお前の強さを知らない人間からすれば、ギルド職員が金で買収されているとか、そういうことを考えるわけだ。S以上の称号だけ欲しい人間は山ほどいるからな」
「なるほど。それで実績がもっと必要ってことか」
「そう。誰も文句が付けられないほど強ければOK。ま、シンプルな話ではあるだろ」
「そうだな。うん。じゃあ他の依頼を紹介してもらえるか?」
「ああ、その……紹介したい、ところなんだけどな」
アンナの歯切れが悪くなる。
視線が掲示板に向いたので、俺もそこを見た。
「今うちにあるのはBランク程度の依頼が最高で、あんたの大きな実績になるような依頼はほぼないんだよ。こいつはうちのギルドだけじゃなくて、他のギルドも同様だと思うがな」
「Bランクはもちろんとして、CやDを受けても実績にならないのか?」
「ならないわけじゃない。だけど微々たるもんだ。たくさんこなす必要が出てくる」
「……それなら、得意分野だ」
「え? たくさんだぞ? 10や20じゃないからな?」
「ああ、もちろんだ。むしろ10や20なら拍子抜けするところだった」
「……むぅ、確かに今は怪我人ばかりで人手不足。あんたが働いてくれるなら助かるけど……」
「決まりだな。他の冒険者の兼ね合いもあるだろうから、誰も受けていないヤツを見繕ってくれ」
「わかった。リム、こいつに色々な燻ってた依頼吹っ掛けろ。こいつなら大丈夫だ」
「わかりました!」
「何か不穏な言葉が聞こえたんだが」
「なぁに、平気さ。あんたは強い。ネームドが倒せるなら大丈夫だよ。ところで……」
アンナがネームド『崩街のギブム』を見る。
「本当に素材も含めてすべて買い取りでいいのかい? こいつならかなりいい装備を作れると思うけど」
「ああ、買取で構わない。どれだけ上等な武具を作っても、俺は装備できないしな」
そう、俺には装備不可の呪いがかかっている。
だから高級素材と言われても、薬になるとか特別な理由がない限りは買い取ってもらうことにした。
「ま、いい感じによろしく頼むよ」
「わかった。期待して待っててくれ」
俺は言って、職員たちが慌ただしく動き始めた倉庫内を出て、受付へ向かう。
新しい依頼はどんなものだろうか。
強い魔物がいるといいな。
そんなことを思いながら、俺はリムの元へ急ぐのだった。




