VS『崩街のギブム』
「ぐるるぁああっ!」
俺を見つけてからのギブムの行動は早かった。
まずその巨体が跳んだ。
木々の枝を破壊しながら飛び上がり、拳を振りかぶって落下してくる。
避けるか?
いや、たぶんあれほど巨大な拳なら地面に当たっただけでクレーターが出来る。
そうなれば衝撃の余波で、アシュルが危ないかもしれない。
どれほどのものか試してみたい気持ちもあったので、俺はあえて受けることにした。
「ぐぅぉぉおっぅ!」
巨体とともに拳が降ってくる。
まるで隕石だった。
普通なら無事ではすまない。
まともに喰らえば、姿形が残るかどうかも怪しい。
もちろん、普通のA級なら、だ。
「おぉっ!」
俺はギブムに呼応するように気合の声を発し、突き出した右手の甲に左手のひらを重ねた。
そしてギブムの拳が、俺の手に触れた次の瞬間。
ドンッ──!
と、腹に響くような音がして、衝撃が木々を揺らし葉を散らせた。
「なるほど、これは強い」
「ぐがっぁっ?!」
ギブムは、宙に浮いていた。
拳を突き出した体勢で、俺の身長分、地面から浮き上がっていた。
「だが、止められるな」
俺は呟き、脚の力を使ってギブムを押し返す。
「ぐごがぁあっ?!」
ギブムは何が起きたのか理解できなかっただろう。
まさか人間ごときに攻撃を受け止められるとは思っていなかったはずだ。
「おっ」
戸惑っていたギブムだったが、空中で宙返りをして俺から距離を取る。
賢い。
怒りや驕りに身を任せてこちらを襲ってくるようなら楽だったのに。
俺は拳を構え、ギブムの動きを待つ。
「ごぁああああっ!!」
するとギブムが叫び、衝撃でまた森が揺れる。
そして、それを合図にして木々の間からドスパンジーが何匹もこちらに向かってきた。
おそろくギブムの部下というか群れの魔物たちだ。
ギブムを頂点としたドスパンジーの群れが、俺に襲いかかってくる。
だが──。
「邪魔だ」
「ぎぎゃぁっ!?」
「ぴぎっ」
「ぎゃぶっ……?!」
俺は襲いかかってきた順にドスパンジーをぶん殴っていく。
頬。腹。肩。顔。
殴られたドスパンジーが吹っ飛び、経験値になる。
もうレベルは上がらないが。
あとで回収して素材を売ろう。
そんなことを考えながら殴り続けていると、群れは再びギブム1匹になった。
「さて、やろうぜ大将。俺はあんたを倒しに来たんだ」
「ぐるるぅ……」
ギブムは目を細め、歯を剥き出しにする。
威嚇だ。明確な殺意を持って、ギブムは俺を見据えていた。
「来い」
「ぐぶがぁああっ!!」
ギブムが再び咆哮を上げ、突進してくる。
握り締めた拳を振りかぶり、フックの機動で巨岩の拳が飛んでくる。
対する俺も、同じように固めた拳を思い切り振った。
「ふんっ!!」
「ぐがああっ!!」
ドンッ──。
俺とギブムの拳が真正面からぶつかる。
衝撃で、森が揺れた。
地面さえも揺れたような気がした。
「がぁあああああっ!!?」
普通ならばあり得ない。
だが、痛みに顔を歪めて拳を引いたのはギブムだった。
ギブムの拳は割れ、血が噴き出している。
骨も折れているだろう。いくつもの指が曲がってはいけない方向に曲がっていた。
「おぉぉっ!」
「ぎぎゃあああっ!」
俺が飛び出し、殴りかかる。
するとギブムは激昂して目を吊り上げ、無事のほうの手で俺を叩き潰そうとしてきた。
真上から虫を潰すように巨大な平手が降ってくる。
しかし──。
「せりゃあああっ!」
俺は飛び出した勢いのまま、地面を蹴って真上に飛んだ。
そして振りかぶった拳を真上に突き出す。
ドパンッ──。
「きぇえああああっ!!」
魔族の魔法を消し飛ばしたときのような音が鳴った。
今回吹っ飛ばしたのは、ギブムの手だ。
俺を叩き潰そうとしていた手が空中高く持ち上がっている。
攻撃を跳ね返されたギブムは、弾かれた腕の勢いのまま、身体をぐるりと回転させた。
そのままひっくり返り、派手な音と土煙を上げて仰向けに倒れる。
「はぁあああっ」
俺は好機と見て木々を蹴り、前へ進みながら上へ飛び上がる。
いくら巨大と言っても、倒れている今ならギブムを上から攻撃出来る。
「お返しだ」
俺は空中で拳を溜めてから、落下に合わせてブンッと振り下ろす。
勢いのついたレベル999の拳が、ギブムの顔に向かって突き出される。
「ぎぎゃっ!?」
反射か本能か、ギブムは傷ついた両手を顔の前に重ねて出して防御した。
だが、そんなものでは止められない。
「──ッッ?!!!?」
ドズム──ッ!!
俺の拳がギブムの左手、右手、そして顔面に向かって突き落とされる。
ギブムの頭部が地面に沈み、首から下が浮き上がった。
一瞬あと、ギブムの身体がズズンッ──と地面に倒れる。
ギブムはピクリとも動かない。
気絶でもない。もう死んでいる。
「よし。討伐完了だ」
こうして俺は、結局アシュルの回復魔法に頼ることなく、ネームド『崩街のギブム』を単独で討伐成功するのであった。




