魔族捕獲と新たな依頼
「……で、魔族を捕獲して帰ってきたってわけ?」
「ああ。こいつがそうだ」
ギルドに戻って縄で縛った魔族を床に置いて説明すると、ギルマスのアンナが目頭を揉んだ。
他の低級冒険者や受付嬢のリムが怖がる中、アンナだけが間近で魔族の顔を覗き込んだ。
「確かにこいつは魔族だが……私は調査だって言ったはずだけど」
「襲われたから仕方なく」
嘘は言っていない。
逃げるのを忘れていただけだ。
「仕方なくでやることか? ミュラントからの定期伝令で規格外とは聞いていたけど……」
「そんなに変なことをしたか? これぐらいだったら、ミュラントのギルマスやアンナ、あなたでも倒せそうだが」
「いや、無理だろ。魔族を単独撃破なんて。百歩譲って出来たとしても、あんたみたいに無傷でなんて無理だ。ムリムリ」
「……そうか?」
アンナは自分の実力を過小評価しすぎだし、魔族を過大評価しすぎな気もするが、まあ本人がやれないというのを無理に勧めるのも悪いしな。
ここはこれ以上言わないようにしておこう。
「にしても、まさか捕獲してくるとは。これはちょっと大変なことになったね」
「まずかったか?」
「いや、なぜまた魔族があの魔族領に増えたのかその原因が知りたい。そのためにこいつは必要な情報源さ。ただ討伐するよりも正直ありがたいよ」
「ならよかった」
「おい、お前たち。こいつを地下牢へ。もちろん魔封じの魔法陣のある牢だよ」
「はっ!」
アンナが言うと、ギルド職員の中でも屈強な男たちが数人、魔族を連れていった。
「あいつらは元冒険者なのさ。実力はまあ、あんたには劣るだろうけどね」
「そんなことはない。ちゃんと鍛えられた身体をしている」
レベルの概念を知ってさらに鍛えていれば、もっと強くなるだろう。
同じレベルだったら、きっと今の俺は勝てないと思う。
「……まあいい。それで報酬のことだが、魔族の捕獲に関してはほぼ前例がない。だから発見報酬、討伐報酬に色を付ける形になるが、それで構わないかい?」
「ああ。元々は調査依頼だったのに、こんな結果になったのは俺の暴走だしな」
結果として良い方向に転がってくれたから良かったとして、余計なことをした、という点では俺にも否がある。
もちろんこんな危ない存在を放置するわけにはいかなかったから、最悪なんだかんだ理由をつけて無報酬もあり得たのだ。
「なら報酬はすぐに用意させる。リム」
「はい!」
リムが受付カウンターの裏に走っていく。
「さて、リクド」
「なんだ?」
「魔族はあいつひとりだったか?」
「ああ。周囲の気配を探ってみたが、他にはいなかった」
「気配……そうか……ひとりならいい。あのクラスが大量発生したら、この街を放棄する可能性も出てくるからな」
「そんなにか?」
「そんなに、だ。あんたは連中を過小評価しているみたいだけど、あれらは凶悪だよ。並の冒険者じゃ手も足も出ない。それぐらい強いんだ」
「あれが……」
うーん。
いくら俺がレベル999だということを加味しても、魔族はそこまで強くない感じがする。
それとも特別に弱っていただけなのだろうか。
腹が減ってたみたいなことを言ってた気がするし。
「ま、引き続き奴らの動向を調査し続けないとな。あんたが捕獲してくれたヤツで最後だといいんだが」
「ん? 魔族は滅んだ存在なのか?」
「は? いやいや、魔族はまだたくさんいる。ただ人の領地近くからは駆逐されただけで、今でも魔族領と接地している領地では小さな小競り合いぐらいはある。私が言ったのは、この平和な領地での魔族発見が最後になればいいってことさ」
「なるほど……」
「それにヤツが捕まったことで、周辺の魔物凶暴化が治まってくれると、冒険者たちが仕事をしやすくなって助かるからな。重傷な連中はもちろん、軽傷な奴らも休ませてやれる」
アンナがふっと小さく息を吐く。
本当に冒険者のことを心配している顔だった。
「アンナは良いギルマスだな」
「ん? これぐらいギルマスなら当然さ。あんたらは私たちの食い扶持でもあるからね」
冗談めかしてそう言ったアンナは、ふと思い出したように俺を見た。
「ところであんた、B級だったよね?」
「ああ、そうだが」
「A級に上げよう。特例だけど、魔族の捕獲はそれぐらいの価値がある」
「本当か!」
それはありがたい。
SSS級になるためには、昇格は早いほうがいいからな。
「本当はS級に上げたいところだけど、それにはいくつか条件があるからね」
「条件? それはどんな条件だ」
「まずA級の依頼をいくつかこなしてもらう。ここまでは今まで通りだ。S級になるには、A級依頼達成の実績が十分に貯まったところで、ギルドに申請をする」
「申請……? ただ強い敵を倒せばいいわけではないのか」
「そう。そしてA級での実力と達成依頼を鑑みて、いくつかのギルマスの承認を受けられたら、昇格専用の依頼が受けられるようになる」
「……つまり、その依頼を達成すれば」
「ああ、晴れてS級ってわけだ。当然一筋縄ではいかない凶悪な魔物を倒してもらうことになる……なるが、まあ正直あんたなら時間の問題だろうね」
「そうなのか? さすがにそんなに簡単ではないと思うが」
S級はひとりにしか会ったことがないし、それもすぐに勝負がついてしまったのだが、それでも試験が楽勝だと思えるほど驕ってはいない。
S級に、果てはSSS級を目指すのであれば、気を引き締めていかないと。
というか俺は今までS級の成り方さえ知らずにSSS級を目指してたんだな。
ちょっと恥ずかしくなってきた。誰にも言わないで良かった。
「SSもSSSも、昇格方法はS級と同じだ。申請して承諾を受けて専用依頼を達成する。ああ、SSSだけは国の調査も入る」
「国も出てくるのか」
「一国を傾ける実力を持つ。それがSSSだからね」
「かっこいい……ん? じゃあもしかして、それが面倒で申請してない野生の強者とかいたりするのか?」
「いないことはないと思うが……いや、訂正しよう。いないだろう。生きていくためには金が必要だし、実力があるならあとは名声を手に入れておけば高額の依頼を受けられるし、そんなバカ強いヤツが申請を面倒くさがってもやらないというのはないと思うけどね」
「そんなものか」
もし野生の強者がそのあたりを歩いていたら面白そうだなと思ったが、まあ確かにアンナの言う通りだ。
SSS級の実力を持っていてA級にとどまる意味は薄そうだ。
「で、さっそくA級になったあんたに仕事を頼みたい、リクド」
「なんだ?」
「凶暴化した魔物の調査とその討伐。一度撃退したが仕留めきれなかった凶悪なヤツだ。名前付き(ネームド)になっている」
「ネームド……名は?」
「崩街、ギブム」




