新たなギルマスと魔族領
「……ひゃ、ひゃく……はちひき……ですか~?」
ギルドの鑑定所。
アイテムバッグに詰め込んだウォー・モンキーを全部出すと、受付嬢のリムが顔を引き攣らせて言った。
彼女の目の前にはウォー・モンキーの山が出来ている。
「ああ、そうだ。鑑定を頼む」
「え、えぇぇ……」
リムは戸惑いつつも、周りの職員たちと協力してウォー・モンキーを数え始めた。
それにしても、いい運動だった。
と、俺はしみじみ思う。
時間にして数十分は戦っていただろうか。
逃げるウォー・モンキーを追ったり、隠れているヤツを探したりして動き回った。
前世の俺だったらこんなに動いたら確実に死んでいただろう。
比喩ではなく、本当にそんな感じの虚弱体質だったのだ。
それが今や無限とも思える体力に恵まれて、俺は感動している。
「リムドさん」
数え終わったのか、リムがやってくる。
「どうだった?」
「確かに108匹、確認しました。倒したことにも驚いていますが、こんな大きな群れがまだ存在していたなんて……」
「大きな群れだけど、ひとつの群れではなかったみたいだぞ」
「え?」
「いくつかの群れが連合軍を作って徒党を組んでいるようだった。ボスっぽいウォー・モンキーが何匹かいたからな」
「ウォー・モンキーにそんな知恵が……?」
「ないのか? あるから、徒党を組んでいるのかと思った」
「いえ、ウォー・モンキーがこれまでそんな行動を取ったことは……いや、もしかして」
リムが深刻そうな顔をして、口元に手をやる。
「何か思い当たることがあるのか?」
「ええ、実はここ最近、手強い魔物が大量に発生してる、というのは話しましたよね~?」
「ああ」
「隣国と我が国の国境にほど近いところに、魔族領があるのはご存知ですか?」
「魔族領……? いや。魔族が住んでいるのか?」
魔族。
名前を聞いたことはあるが、実際に目にしたことはない。
曰く、普通の魔物よりも強く、残忍で好戦的だという。
しかしその数は少なく、また近年では人里に来る個体も減少しているのだとか。
「いえ、魔族の姿は確認されていません」
「じゃあなぜ魔族領と?」
「以前、住んでいたんだ。そこに魔族が」
話に割って入ってきたのは、リムと同じくウォー・モンキーを数えていた女性職員のひとりだった。
背が高く、服の上からでも鍛えられているのがわかる肉体をしていた。
「ギルドマスター」
リムが女性職員をそう呼んだ。
ギルマスだったのか。
「あんた、B級のリクドっていったか」
「ああ。リクド・アルスベールだ」
「うん。良い面構えだ。私はアンナ・シルベストリ。ここのギルマスだ。よろしく」
「よろしく」
「魔族の話だったな。連中は確かにその魔族領に住んでいたが、ギルドが連合を組んで討伐したんだ。連中と私たち人族は相容れなかった。魔族にとっちゃ、私たちは食料だからな」
「……なるほど。それで、なぜ今その話が?」
「そこだ。ここ最近の騒ぎと、魔族を見たという商人、冒険者の数が急増した時期が一致する。ただの街道になったはずの、魔族領でな」
「ふむ。じゃあウォー・モンキーが異常な行動、知恵をつけた行動をしていたとして、アンナたちは魔族が関係していると考えているんだな」
「そのとおりだ。というより、十中八九関わってると思って間違いないだろう」
「なぜ?」
「魔族は、魔物を操り、強化し、従えることが出来る」
「ああ……」
なるほど。
それは納得出来る情報かもしれない。
「1匹や2匹の異常個体なら時折現れるから問題視してもすぐに討伐依頼を出して重大な被害は出ない。だが、あんたが倒した数を見るだけでも、異常個体の数はその比じゃない。だから私たちは裏に必ず魔族がいると考えている」
「討伐しないのか?」
「する。いや、したい。あんたも知ってるだろう。B級とA級のパーティーがいくつか重傷を負っている。残っているパーティーも、街の防衛に残っていてもらいたい。魔物はいつ攻めてくるかわからないからな。だから」
言って、アンナは俺を見た。
「リクド。ウォー・モンキーを108匹も倒した腕を見込んで、あんたに魔族領の調査を頼みたい」




