B級と旅立ち
「認めよう。お前は確かにキングコカトリスを倒したようだ」
ダメージから回復したレジオが言って、一枚のカードを俺に差し出す。
カウンターの上に乗せられたそれは、B級と書かれた冒険者カードで、横には俺の名前が記されていた。
「B級って……」
「すまんが、一度に上げられるのはこれが精一杯だ。いくらキングコカトリスを倒せる人材だとしてもな」
「いや、俺は普通にE級だと思ったから」
「ふん、冗談言うな。キングコカトリスを倒し、元とは言えA級の俺にたった一撃で勝ったんだ。それでもまだ足りないぐらいだ」
言いつつ、レジオはカウンターに腕を乗せて俺をジッと見つめてくる。
「それ以上上がるにはな、本部が認める功績が必要だ。ドラゴンとは言わないが、街を定期的に襲ったり、群れ始めているのが確認されているB級以上の魔物を討伐とかな」
「ドラゴン……」
「そうそういないから期待するな。はぁ、お前がこんな規格外とはな。B級になれると言ってたのが恥ずかしいぜ」
レジオはイスに深くもたれ、腕を組む。
「お前はもっと上を狙える逸材だ。だからこそ、この街を出ろ」
「……え?」
「本当はお前を囲いたいぐらいなんだがな、残念ながらうちのギルドには、お前が真価を発揮するほどの依頼はない。精々C級があれば良い方だろう。だから、お前はこの街を出て、もっと上のランクを狙え。そのほうが世の役にも、お前のためにもなる」
「……なるほど」
レジオの言うことは最もだった。
この街に思い入れがあり、この街のために生きたいと思っていたならまだしも、俺は近隣の村出身で、そこから一番近かったからこのミュラントの街にやってきただけだ。
そう考えると、強敵を求めて次の街に行くのも悪くはない。
「わかった。そうする。ところで、どこへ向かえばいいと思う? 隣街はここと同じランクぐらいの依頼ばかりだったし」
「そうだな。なら、この街から馬車で一週間ほど行ったところにあるエルザールの街へ向かうといい。マリシア国とヒーエーン王国の国境近くにある街で、凶悪な魔物が多数出没することで有名だ。常駐しているBやA級冒険者も多いぞ」
レジオは地図を広げて場所を教えてくれる。
「わかった。エルザールだな。明日、出発することにするよ」
「ああ。それがいい。お前の力をここで腐らせるのはもったいないからな。エルザール近くまでの馬車がちょうど明日出発するはずだ。それに乗っていけばいい」
「ああ、色々とありがとう」
「なに、期待のルーキーと剣を交えることが出来たんだ。こちらこそ光栄だ」
そう言ってレジオが手を差し出すから、俺はその手を取って握手する。
それから出発の準備のため、ギルドを出た。
☓ ☓ ☓
「リクド、街を出てエルザールへ向かうって本当ですか?」
荷物をまとめ終わって、宿の食堂で食事をしているとエリサが訪ねてきた。
エリサは護衛依頼を受けた新米商人だ。
「ああ、本当だ。すまない。今度の依頼も受けるなんて言ったが、約束は守れそうにないな」
「そんなのはいいんです。あの、気をつけてくださいね。エルザールは今、かなり危険な情勢らしいので」
「危険……?」
エリサの言葉に、俺は肉を切る手を止めた。
「はい。何やら危険な魔物が発生しているようで、被害が多発しているとか」
「街中に入ってきているのか?」
「はい。もちろん全部打ち倒されはしましたが、B級、A級のパーティーがいくつか負傷して活動ができない状態になっているみたいです。S級以上への要請をしているみたいですけど、一番近くにいたはずの雷剣のナッシュさんとは連絡が途切れてしまったみたいで」
「ナッシュ……」
またあいつか、と思う。
そしてだいぶ重大な依頼を受けようとしていたらしい。
「だからどうか気をつけてくださいね。いくらリクドが強くても、危ないことには変わりないと思うので」
「ああ、ありがとう。肝に銘じておくよ」
「それがいいです。ところで、この街での最後の食事なら、私も付き合っていいですか?」
「……ん? はは、構わない。何を頼む」
話がまとまれば切り替えの早い新米商人に思わず笑ってしまう。
エリサはメニューを一通り見てから、店員を呼んだ。
「すみません、このお酒とこの串焼き、それから……」
そして俺とエリサは、小さな小さな送別会を楽しむのであった。




