元A級冒険者レジオ
「俺は大剣を使うが、構わないか」
「ああ、構わない」
ギルドの敷地内にある模擬戦場に俺は立っていた。
もちろん素手だ。
対してレジオも防具を着けていない。
武器だけだ。
レジオの身長と同じぐらいの大剣。
なるほど、あれほどの鉄の塊を軽々と肩に乗せているのを見ると、元A級冒険者というのは嘘ではないようだ。
レジオの後ろにはギルドの職員が数人いる。
立会人であり、単純に観客でもあるのだろう。
「俺は何をすればいい?」
「普通に戦ってくれるだけでいい。俺の攻撃を避けるなり、防ぐなり、攻撃するのも自由だ。ああ、一応言っておくが、殺しはなしで。出来るだけ怪我も重傷にならないように頼む」
「わかった」
わずかなルールを確認して、俺は構える。
レジオも構えた。
雰囲気が変わる。
気の良いオッサンといった様子のレジオはそこにはいない。
歴戦の戦士の威圧的な雰囲気が立ち昇る。
「いくぞ……」
レジオが言う。
呼気を細くこぼし、それから爆発的に動いた。
「──ッ!」
レジオが迫る。
後ろに振った大剣が、全身の力で俺に向かって横薙ぎに振るわれる。
俺はそれをバックステップで避けた。
「ふんっ!」
レジオは俺が避けたのを見て大剣をビタッと止める。
そしてそのまま突いてきた。
俺はそれをしゃがんで避け、横に転がる。
「おぉっ!」
直後、先ほどまで俺がいた場所に、大剣が突き刺さる。
何が殺しはなしだ。
殺る気満々じゃないか。
だが俺は元A級が本気でかかってきてくれるのが嬉しくて、思わず笑みを浮かべた。
レジオは強い。
相当だ。A級というのも嘘なんじゃないかと思う。
勘違いじゃなければ、雷剣のナッシュよりも強く感じる。
「くぉぉおっ!」
レジオは気合の声を発し、大剣を一度天高く掲げ、踏み込みながら振り下ろす。
俺は同じくバックステップで交わす。
が、攻撃は一回ではなかった。
「はああああっ!」
レジオは振り抜いた大剣をそのまま自身の左横を通過させて身体ごと回転させ、勢いのついたもう一撃を振り下ろす。
(こっちが本命か……!)
俺はゾクゾクっと肌が粟立つのを感じた。
すごい。強いヤツはこうやって攻撃方法にも工夫がある。
かなりの速度で大剣が迫る。
だが──。
「……っ!?」
俺はそれを身体を半身にしてスレスレで避けた。
レジオの目が驚愕で見開かれる。
本気には本気が礼儀だ。
俺は握った拳を振りかぶり、レジオの鳩尾を打ち抜いた。
「げはぁっ!??」
レジオが大剣を手放して吹っ飛ぶ。
一度地面にバウンドして、模擬戦場の壁にぶち当たってぐったりと倒れた。
「れ、レジオさんが負けた……」
「F級に……そんな……」
「レジオさーん! し、しっかり!」
職員たちが口々に言って動き出す。
俺は自分の拳を見つめて、それからもう一度、気を失ったレジオに目をやる。
(レジオ、強かった。同じレベルだったら、負けてたな)
俺はそんなことを思いながら、殴った感触の残る拳を握りしめた。




