行きはよいよい、帰りは……よいよい!
「ご用事はもういいんですか?」
宿に帰ると護衛任務の依頼主であるエリサが待っててくれていた。
「わざわざ待ってたのか? 寝ててよかったのに」
俺が言うとエリサは微笑む。
「だって大事な護衛さんがいなくなったら困るじゃないですか。いくらS級と言っても、何か横暴なことをやったらギルドに通報しようと思ってました」
「……心配かけたな。ありがとう」
「へへへ、どういたしまして」
エリサの純粋な心配に感謝しつつ、改めて明日の予定を詰めて、俺とエリサは別々の部屋に帰る。
俺はベッドに潜りつつ、ナッシュについて考えていた。
(あれがS級……? 本当に? レベル的には精々100にも達してなさそうな動きだったが……)
冒険者になるに当たって、聞いた話によるとF級からA級まではまだ人間ということだった。
デミドラゴン殺しが出来るのがA級。それ以上の強さを持つ人外の化物がS級以上という話だ。
つまり、ナッシュはドラゴンを殺せるほどの強さの持ち主ということだ。
ドラゴン。
俺にしてみれば、伝説上の生き物だ。
幸か不幸か、まだ見たこともない。出会っていたら確実に殺されていただろう。
今のレベルなら渡り合うことは可能か。
いや、ギリギリだろう。
ドラゴンというのは人外の人間でしか相手にできない最強の生物の総称だ。
そんなものを倒せると言われるS級が、そんなに弱いわけがない。
(なら、ナッシュは身分を詐称している? いや、ギルド職員の反応から、そんなことをしていればすぐにバレると思うが……うーむ。わからん)
ドラゴン、いつかは戦ってみたい魔物ではある。
倒すことが出来れば、俺も人外の仲間入りであり、S級に自分の力が通用するという証拠になるからだ。
(まあ、S級に上がるために必須なのはドラゴン殺しじゃなくて、ドラゴン並と評されている魔物を倒すとかなんだろう。あとは討伐依頼だけじゃないしな、ランクを上げる方法は。現に俺だって、まさに今、護衛依頼をやってるんだし)
そこまで考えたところで、俺は面倒くさくなって目をつぶった。
眠気に襲われたままにする考え事の結論なんて、いつもろくでもないものだ。
☓ ☓ ☓
「では、帰りましょうか」
「ああ」
明朝、行きと違って大量の荷を荷台に詰め込んだエリサが、ホクホク顔で言った。
俺は返事をしつつ、狭い荷台の隙間に腰を下ろす。
この状態でも、気配を察知することは可能だ。
「出発進行〜」
エリサが上機嫌に言って、ゆっくりと荷馬車が走り出す。
短い滞在だったが、なかなか面白い経験の出来た街だった。
また来ることがあれば、今度はギルドの依頼を受けてみようか。
そんなことを考え、エリサと時々話しながら荷馬車に揺られていると、不意に気配がした。
「また盗賊か。エリサ、そのまま馬車を走らせててくれ」
「え? は、はい……!」
エリサが緊張した顔で頷いたのを確認して、俺は荷馬車を飛び降りて前方に駆ける。
レベルが上がると身体能力もアホほど上がるので、実は荷馬車よりも速く走れるのだ。
「そこの荷馬車! 止まれ! このS級冒険者、雷──」
「どけ盗賊!」
「へぼぅああっ!?」
俺は顔がパンパンに腫れ上がった盗賊をぶん殴って、街道脇の高草の中へと吹っ飛ばす。
「……ん?」
何か見たことがあるような服装だったし、聞き覚えのある声だったような気がする。
「気のせいか……?」
思いつつ、俺は荷馬車へ戻る。
「リクド、大丈夫でした?」
「ああ、大丈夫だ。そのまま進めてもらっていい」
言って、俺は荷台から盗賊を吹っ飛ばした高草のほうを眺める。
(まさか、いやでも……あれ、ナッシュじゃなかったよな?)
声も服装も似ていたが、顔が全然似つかない。
彼はもっとイケメンだったはずだ。
(あ、ナッシュと言えばアイアンリザードを貰い損ねたな。討伐依頼は受けていないが、いいポイント稼ぎになったんじゃないだろうか)
もったいないことをした。
しかしあの状態のナッシュにアイアンリザードを貰っていいか聞くのも憚られた。
(まあ、いいか)
俺はそう結論付け、再び気配を探りながら、エリサとのおしゃべりに興じるのだった。




