怖いな、こいつ
(S級が本気で来る!!)
俺は構え、そしてナッシュの剣を避けてその顔に拳を叩き込んだ。
「へぶらっ!?」
「えっ!?」
なんとナッシュは俺の拳をまともに喰らい、突進してきたときよりも速い速度で吹っ飛んだ。
「げんっ……?!」
しばらく宙を滑るように飛んだあと、地面に落ちたナッシュはゴロンゴロンと転がって動かなくなった。
「……え? あれ……?」
俺は構えを解かなかったが、頭には疑問符がたくさん浮かんでいた。
(俺の油断を誘う作戦か? 次は何で来る? まさかS級がこんなあっさり倒せるわけがない。ナッシュはまだ奥の手を隠しているはずだ。あんなことを言っていたからには、俺を傷つけるための策も実力も……)
一分経ち、二分経った。
「……ん? え? え?」
死んだふりをしてまた襲いかかってくるに違いない。
そういう魔物を相手にしたこともある。
姑息な手だとは思うが、勝利に対する執念はさすがS級だ。
俺はそう思う。
思うのだが……。
「まさか、本当に……?」
ナッシュはピクリとも動かなかった。
まるで死んでるみたいだ。
「い、いやいや、まさか……S級がそんな……」
そこで俺はようやく本当に倒してしまった可能性を考慮し、構えを解いてナッシュに近づいていく。
そして──。
「あの、ナッシュさん……?」
返事はない。
ただのしかばねのようだ。
前世のゲームのセリフが頭の中を過ぎる。
「ナッシュ!」
俺は焦り、うつ伏せに倒れたナッシュの背中を思い切り叩く。
バァンと何かが破裂したような音が鳴って、ナッシュが跳ねた。
「ハバッ……!?」
ナッシュが起き上がる。
なぜか正座で、辺りをキョロキョロと見渡している。
「ナッシュ! 良かった、目を覚ましたんだな!」
「ここは……? 貴様は、リクド・アルスベール……? ハッ!?」
何か思い出したようにナッシュは剣を抜こうとするが、吹っ飛んだときに落としていたので、空っぽの鞘に手を当て、困惑した表情になる。
「あぎゃああっ!?」
そして急に叫び、背中に手を回してのたうち回る。
「せ、背中がっ!? おのれリクド・アルスベール! いったい何をっ……いぎぃっ?!」
「な、なんだこいつ……?」
あっという間に倒せたかと思ったら、今度は俺が攻撃してもいない背中を押さえてのたうち回る。
悪霊でも憑いてしまったのかと思うほどの狂乱っぷりに、俺は恐ろしくなって後退りする。
「無事みたいだから……俺は帰るぞ」
ちょっと引きながら俺は立ち上がり、踵を返す。
「ま、待てっ! 貴様、何をした! どこかに仲間でもいたのか!? おっ?! おごごっ、せ、背中が破裂したみたいに痛いぃっ……!!!」
何やら勝手に盛り上がる不気味なS級、雷剣のナッシュを置いて、俺はさっさと帰ることにするのだった。




