会いたくないって願ったじゃないか
「会いたくないと願ったはずだったんだが」
俺は呟いた。
夜。
滞在している街から少しだけ離れた草原だった。
「お前は実力を隠している。俺にはわかる」
目の前にはS級冒険者、雷剣のナッシュがいた。
エリサとの夕食を終えて明日の打ち合わせをし、そろそろ寝るかというところで、宿にナッシュがやってきたのだ。
そして連れ出されて今の状況、というわけである。
「別に隠しているつもりはないんだが」
「嘘を吐け。お前ほどの実力でこれまで無名なんて、意図的に隠しているに決まっている」
「そりゃあ冒険者になって三日目だし、実力を示す機会なんてなかったわけだし。そもそもナッシュさん、あんた、俺の実力なんてわかるのか」
ナッシュはS級だ。
当然、レベルで換算すれば900前後はあるに違いない。
レベル900から先のレベル上げは本当に気の遠くなるような時間がかかった。
最初の5年でレベル900までは上がったのだ。
次の10年で、最初の5年とは比べ物にならないほど数多くの魔物を倒してようやくカンストしたのだ。
つまり冒険者の中でも別格とされ始めるS級は900まではあると思ったほうがいい。
999、つまりカンスト組は、SSS級に違いない。
というのが俺の持論だった。
雷剣という二つ名持ちで、S級。
レベルは俺が多少上だとしても、技術や経験を考えると俺より強いと思ったほうがいい。
ナッシュはたぶん、俺のレベルを見抜いているが、実力に関しては勘違いしている。
実戦経験が豊富なS級相手に、弱い魔物ばかりを狩り続けてレベルを上げた俺では比べ物にならないというのに。
「それはつまり、俺では貴様の実力を見抜けないということか?」
「は? なぜそうなる?」
ナッシュはやはり勘違いしている。
その上、俺の言葉を曲解してしまっていた。
「違う。俺は……」
俺が誤解を解こうとするが、
「なら、貴様の実力を見せてみろ。リクド・アルスベール」
そう言って、魔法のバッグを取り出し、中から何かを引きずり出す。
「それは……!」
「殺しても良かったんだがな、捕まえてきた。貴様の実力を測るために」
それは、討伐対象のアイアンリザードだった。
わずかな傷だけで、ほぼ万全に見える魔物の出現に驚く。
そしてアイアンリザードは明確に、俺を敵視していた。
「こいつは気が立っている。だが俺には向かってこない。力でわからせたからな。さあ、どうするリクド・アルスベール」
「どうするったって」
アイアンリザードが俺とナッシュを見比べ、当然のように俺のほうへ向かってくる。
四足をバタバタと動かした突進で、かなり速い。
だが、特に問題はなさそうだった。
「ふんっ!」
「ケッ……!?」
間近まで近づいてきたアイアンリザードの頭に、握った拳の小指側から振り下ろす鉄槌を喰らわす。
それで終わりだった。
一撃。
アイアンリザードはピクリとも動かなくなった。
「……思ったより手応えがなかったな」
俺が呟くと、前から笑い声がする。
ナッシュだ。
「くはははっ! 素晴らしい! 思った通りだ、強いなリクド・アルスベール! 武器も使わずその強さ。ははは! 素晴らしい!」
「……どうも」
テンションが高くて怖いなこいつ。
なぜそんなに高笑いしているのか。
「はぁ、久しぶりに本気を出せる相手が出てきて俺は嬉しい」
「……何の話だ?」
ナッシュが剣を抜き、俺に向ける。
「お前も武器を抜け、リクド・アルスベール。俺に勝てたらその獲物をやろう。いや、負けても貴様の手柄にしてやる。だから、本気で来い」
「……ああ、なるほど。そういう話か」
俺はやっとナッシュが何を求めているのか理解して、握った拳を構える。
「俺はこの身体が武器だ。遠慮しなくていい。かかってこい、ナッシュ」
俺が言うと、ナッシュの笑みに威圧が加わる。
「……なるほど、舐めているんだな。いいだろう。貴様が本気になるまで、いたぶるのも悪くない。後悔するなよ」
どうやらナッシュはバカにされたと思ったらしい。
そして、身体を沈めたと思った瞬間、剣を構えて地を蹴った。




