初めて見るS級冒険者
「じゃあ、私は買付をしてきますので、リクドはその間自由に過ごしてください」
「わかった。そうさせてもらおう」
「で、夕食の時間になったらこの宿に戻ってきてください」
「了解だ」
無事に隣町、ネムラに着いた俺たちは、宿屋の前で別行動を取ることになった。
買付に興味がないわけではないが、街の中で早々護衛が必要な場面もないだろうし、大人しくこの街のギルドでも見ておくことにする。
「街とそんなに変わらないか」
ギルドに到着し、掲示板を眺める。
しかし俺が拠点にしている街、ミュラントとネムラではクエスト内容に大差はない。
常時討伐依頼のゴブリンやコボルトにスライム。
そこにオークなどが混ざるものの、基本的にはD級辺りまでのクエストばかりだ。
一応、近くにある鉱山町から降りてくるアイアンリザードの討伐がB〜A級クエストになっているが、受けられる冒険者がそもそもいなさそうだ。
そう思っていると──。
「おい、雷剣のナッシュだ」
「まじかよ。なんでS級がこんなところに」
ギルドの中がざわめいた。
俺は掲示板から目を離し、入口の辺りを見る。
するとそこには、明らかに格が違う雰囲気を纏う男が立っていた。
腰の両側にそれぞれ剣を佩いている。
どうやら二刀流のようだ。
それにS級と言っていたな。
SSS級を目指す俺としては、ぜひ見ておきたい人物だった。
「ナッシュ様、どうされたんですか?」
受付嬢の目がハートになっている。
ナッシュはイケメンだものな。
「アイアンリザード討伐の件で来た。この街には受けられるものがいないと聞いてな」
ナッシュは言って、ギルド内を見回す。
冒険者たちは恥ずかしそうに俯き、誰も彼と目を合わせない。
「……ふん。腑抜けばかりか」
小声でひどいことを言うナッシュと、不意に目が合った。
それからナッシュは目を見開くと、次いで魔物にでも遭ったかのように睨みつけてくる。
なんだ……?
「お前、名前は?」
「俺か?」
「ああ、そうだ」
突然ナッシュに話しかけられて驚く。
周りの冒険者や受付もそのようで、ギルド中の注目が俺に集まってしまった。
「リクド・アルスベール」
「階級は?」
「F級だ」
「……面白くない冗談だ」
「本当だ、ほら」
俺は冒険者カードを提示する。
すると近づいてきたナッシュがカードに目を近づけ、眉間に深いシワを寄せた。
「お前みたいな人間がF? 何の間違いだ?」
「何の間違いだと言われても」
侮辱されているのだろうか。
「冒険者はいつからだ」
「三日前だな」
「……なるほどな」
質問に答えると、ナッシュの眉間のシワが取れた。
そして、いきなり剣を抜いて俺の首筋に斬り飛ばそうとしてくる。
「……いきなり何するんだ」
普通こういうのは寸止めとかじゃないのかと思いつつ、俺はナッシュの剣を指で挟んで受け止めた。
「首が切れたら、そのときは謝罪してA級にでも降格するつもりだった」
謝って済む話ではないだろう。
そもそも首を飛ばした本人はもう死んでるのに誰に謝るつもりだったんだ。
「おい、あいつナッシュの剣を止めたぞ」
「いや、いやいや、さすがにナッシュは手加減してただろ」
「じゃあお前、今の剣見えたのかよ」
「…………まったく、全然」
外野がざわつき始める。
いや、誰かこのヤバい人を咎めたりしてくれないのか。
「リクド・アルスベール。名を覚えておく」
「……どうも。ナッシュ、さん」
俺が言うと、ナッシュは満足したように剣を収めて去っていった。
奇異な目で見られ始めたので、居心地が悪くなったので俺もギルドを出ることにした。
雷剣のナッシュ。
いくらS級といえど、いきなり人の首を飛ばそうとしてくる人とはあまり会いたくないな。
どうかもう二度と会いませんように。
俺は異世界にいるかどうかわからない八百万の神に祈りながら、約束の時間まで街をぶらぶらして暇を潰すのだった。




