あとどれくらいの時間があれば
あんな風に、戦ってみたい。
クラッドは、リクドと魔王のステゴロを見ながらそう思っていた。
世界を滅ぼせるような喧嘩が始まって数分。
クラッドの目は、信じられないことにふたりの動きを捉え始めていた。
目で追えることは奇跡だと言ってもいい。
学者上がりで武芸の実力に秀でていないものとしては。
(こんなもの、憧れることはなかったのに)
戦闘の大神であるシャズレンを信仰しているとはいえ、己が戦うことにあまり意味を見出させてはいない。
なにより、自分がいつからシャズレンを信仰していたのかも覚えてはいない。
けれども、その些細なことのおかげで、今リクドたちの戦いを見ることが出来ている。
記憶にない自分の選択に、クラッドは己自身に感謝していた。
「はぁああっ!」
「おぁあああっ!」
間違いなく最強の生物たちによる戦闘。
雄叫びをあげ、原初の行動を体現するように、互いを殴る蹴る。
火花も散らない。剣戟の音もない。
あるのは、肉体で肉体を打つ音だけ。
血が散る。
埃が舞い、ふたりの動きで発生した風で吹き飛ばされていく。
男たちが愉しそうに、心底愉しそうに、思う存分殴り合っている。
(凄まじい……)
子どもみたいに無邪気に、一撃一撃がもはや都市さえも半壊させそうな威力の殴り合いをしている。
いや、もしかしたらその一撃は都市を滅ぼすかもしれない。
(あんな恐ろしいもの、絶対に入れはしない。なのに……)
身体が、血湧き肉躍る。
自分もあんな戦いをしてみたい。柄にもなくそう思うのだ。
「あとどれくらい……」
不意に、ルカの唇から言葉がこぼれた。
「え?」
横にいたブリュンヒルデが目を戦いから目を離さないまま、反応する。
「あとどれくらい強くなれば、あんな風に戦えるんだろう〜って」
「まず無理だと思うけど、分が悪すぎる賭けならある」
「……なに?」
「世界中の魔物を根絶させることが出来るくらい強くなれば、もしかしたら」
ルカは微かに口角を持ち上げた。
わずか数十メートル先で拳と拳がぶつかり合う。
衝撃で壁の一部が崩れた。
「じゃあ無理かも。どれだけの魔物を倒しても、リクドより、魔王より強い魔物はいない」
「あー、そりゃそうか」
魔王直属の配下っぽい四天王でも相手にならないとは牛頭と馬頭の言葉だ。
そして実際その通りなのだろう。
むしろそれぐらいでなくては、勇者以外に特攻を持つ魔王と渡り合えるはずもない。
「……踊ってるみたい」
ルカが、思わずといったふうに呟いた。
廃墟はまるできらびやかな舞踏会場だった。
互いに思うまま、力をぶつけ合う。
拮抗する力は、ときに洗練された踊り子のような動きを描いてみせるのだ。
しかし──。
「ごはっ!?」
フィナーレは、すぐそこに迫ってきていた。




