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開戦前

「……知っているか、リクド・アルスベール」


 俺たちが中に入ると、魔王が語りかけてくる。


「何をだ?」

「魔王とは、ただの肩書だということを」


 魔王は言って、右手のひらの軽く上に向ける。

 手のひらの上に、渦を巻く球体が現れた。

 それは純粋な魔力の塊だった。


 おそらく、あれひとつで街は半壊するだろう。


「魔王とは、世界に魔力が満ちたとき、自然発生する魔物たちを統べるものに対しての肩書だ」

「それは、なんとなく知っている」


 クラッドから聞いた話だ。

 魔王が生まれ、勇者が生まれ、そして勇者によって討伐される。

 世界は平和を取り戻し、また新たな魔王が生まれるまで人々は生を謳歌する。


 クラッドはひとつの仮説を立てていた。

 魔王とは、濁った魔力を浄化するための装置なのではないか、と。


「魔王とは、自然の循環の一部だ。ただそれだけの存在に、名をつけただけにすぎぬ。だが、異変が起きた」


 魔王の目が、俺を見据える。


「魔王は勇者に殺されるまで、人々を、世界を蹂躙する存在。我もそのはずだった。だが、見ろ」


 魔王は何もない空間から、剣を取り出す。

 それは柄のない、剣先だけの剣。


「それはっ……!?」


 驚いたのはクラッドだけだった。

 俺とルカ、ブリュンヒルデはアレがなんなのかわからない。


「そこの男は気づいたようだ。そうだ。これは勇者の剣。今代の勇者は、我が殺した」

「……え?」「……は?」


 ルカとブリュンヒルデの声が重なった。


「勇者を、殺した?」


 クラッドの声が、あとを追う。


「……驚きではあるが、何かマズイのか?」


 俺の質問に、クラッドは信じられないものを見るような目を向けてきた。


「い、いいか。リクド。勇者しか魔王を倒せない。その勇者が殺されたってことはつまり、俺たちは、世界はただ魔王に蹂躙されるしかないってことなんだよ!」

「……そうなのか?」


 俺は魔王に聞く。

 すると魔王はニヤリと笑みを浮かべ、剣先を投げ捨てた。


「そうだな。勇者は魔王に殺された。つまり、誰かが勇者の代わりに魔王を止めなくてはいけない。人族の命運を担って」


 そう言って、魔王は俺を指さした。


「貴様だ、リクド・アルスベール。貴様にすべては託されたというわけだ」

「……悪いが、関係ない」

「なに?」


 俺は腕を組み、魔王を真正面から見据える。

 他の三人は魔王の前に立っているのも辛そうだから、守るように、壁になるように立つ。


「命運だとか、そんなのはどうでもいい。俺はお前と戦いたいんだよ、魔王」

「ふっ、くはっ! くはっはっは!」


 魔王が噴き出す。

 その声だけで、気の弱い人間は死んでいたかもしれない。


「そうだ、それでこそ我の望んだ強者。牛頭、馬頭。それからリクド以外の人族よ、扉まで下がれ」


 魔王に命令され、牛頭と馬頭、それから三人が扉まで下がる。

 三人は不安そうな顔をしていたが、俺は頷いて再び魔王に顔を向けた。


「よし」


 魔王がこちらに向かって手のひらをかざすと、クラッドたちの前に薄い半透明の膜が張られる。


「結界だ。我と貴様の戦いの余波が及ばぬ。ないとは思うが、これで仲間を気にすることなく戦えるだろう」

「感謝する」

「よい。さあ、では始めるとするか」


 魔王が立ち上がり、玉座から下りてくる。

 ただそれだけの動きで、ビリビリと世界が振動するような覇気が発生する。


「準備はいいな? リクド・アルスベール」

「ああ、万全だ。魔王」


 そして、俺と魔王は10メートルの間を空けて対峙した。


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