魔王城
「これが、魔王城……」
クラッドがつぶやき、城の中を見渡す。
俺たち全員が、同じような動きをしていたい。
魔王城に到達し、中に入った。
あまりにもあっさりと入れた上に、中は驚くほど簡素だった。
柱と壁、窓。石畳と、埃。
魔物はいない。
驚くほどの静謐さに包まれている。
「もっと熱烈な歓迎をされると思ってた」と、ルカ。
「私も。ていうか、そもそも魔物すらいない?」
ブリュンヒルデがそう言ったときだった。
「いや、我々がいる」
十字路になっている左右の角から、2体の魔物が出てきた。
「誰だ」
「おっと、構えるな。戦うつもりはない」
4人で一斉に構えると、牛の頭をした魔物が両手を軽くあげて言った。
おどけているような態度だった。
「我々はお前たちの案内係だ」
続けたのは、馬の頭をしたもう1体の魔物だ。
「案内?」
俺が聞くと、2体が同時に頷く。
「我は牛頭。リクド・アルスベール。魔王様はお前と会うのを楽しみにしている」
「我は馬頭。だから側近である我々が案内する。安心しろ。罠などではない」
魔物たちの言葉に、クラッドが前に出た。
「待ってくれ。四天王はどうした? 魔王の側近には人族のSSS級すら凌ぐほどの強さを持つ4体の魔物がいるはずだが」
牛頭と馬頭は質問に顔を見合わせたあと、ニヤリと笑った。
「四天王は確かにいる」と、牛頭。
「だが、正直に言って他の連中はともかくお前の相手にはならないだろう。リクド・アルスベール」
馬頭が言って、身体を半身にする。
それから片手で、前方を示した。
「我らは貴様に敬意を払っている。無駄な犠牲を出すつもりも、万全ではない貴様と魔王様を戦わせるつもりもない」
「ついてこい、リクド・アルスベール。我々は貴様を歓迎しているのだ……ついでに、そこの三人もな」
牛頭の言葉に、ルカが肩をすくめる。
それからブリュンヒルデと顔を見合わせる。
「悔しいけどさぁ、ありゃ強敵だね〜」
「そうだね。ダンジョンコアみたいに楽勝とはいかないね」
「ヘタをしたらどっちか“もっていかれる”かもね〜」
「うん……それを従えている魔王……いやぁ、底知れない」
「……」
おしゃべりする余裕がある女子ふたりと、緊張した面持ちのクラッド。
俺はクラッドの肩をぽんと叩いてから、再び前に出て牛頭と馬頭のあとに続く。
「行こう。俺は罠じゃないと信じる」
「……まあ、お前さんが言うならそうなんだろうな」
クラッドはようやく深い息を吐き出して、少しだけいつもの調子に戻った。
ルカとブリュンヒルデもあとをついてくる。
どのみち、やることは変わらないのだ。
俺は魔王と戦う。
心ゆくまで。
今度こそ、決着をつけるまで。
☓ ☓ ☓
道中、魔物は1体も出てこなかった。
四天王と呼ばれるものも、気配すらない。
本当に、“歓迎”されている。
俺はそう感じた。
しばらく歩くと、巨大な扉が見えてきた。
すぐに理解する。
この中に、魔王がいる。
俺が避けれない速度で拳を叩き込み、倒し、鼻血を出させたステゴロの強者。
牛頭と馬頭が巨大な扉を開けると、そこは玉座だった。
お世辞にも綺麗とも荘厳とも言えない、廃墟みたいな王の間だった。
しかし、だがしかし──。
その玉座に腰掛ける男の気配だけは、本物だった。
「魔王……」
「待ちわびたぞ、リクド・アルスベール」
ただそこにあるだけで痺れるような圧を感じさせる男。
魔王が、そこにいた。




