異形だろうとも
「すご……あんな状態のギール初めて見たし、あれを倒しちゃうし」
ブリュンヒルデが若干引きながら言う。
「これは何年か修行するぐらいじゃあ追いつけないねぇ。神の武器辺りがないと……いや、あっても使い手が同じぐらい鍛えてないとダメか〜」
ルカが苦笑しながら、2本目の棒付きキャンディーを咥える。
「強かった。すごい攻撃だった。あんなのは、初めて見た」
俺はというと、感動していた。
恐ろしいほどの静寂。
無になったギールの攻撃は凄まじかった。
あれを使うのが魔王だったらと思うと、ゾッとする。
今度こそ、負けるかもしれない。
いやそもそも、魔王相手には一度負けているようなものだ。
殴られ、倒され、起き上がる前にどこかへ去られた。
今度は必ず勝つ。そのために、この弱気も捨てなくてはいけない。
レベルはカンストでも、まだまだ技術が必要だ。
強くなりたい。もっと、もっと。
「おい! リクド!」
自分の欲望に沈み込んでいたら、突然クラッドに呼ばれた。
クラッドを見て、必死に指さしている場所を見る。
そこには、ギールの死体と、懐からこぼれ落ちたダンジョンコア。
そのダンジョンコアに手を伸ばし、掴み、口へ飲み込もうとしている男──ナッシュ。
「やばっ!?」
「コアを、ふたつ……!?」
止めに入る間もなかった。
ナッシュの口にコアが入り、すぐに飲み込まれる。
死にかけていた。
もう動けないほどの攻撃を喰らっていたはずだ。
それは執念だった。
自分に屈辱を与えた男を必ず殺すという、怨念にも近い執着。
「かっ……! が、アァアアアアアアアアアア!!!」
背中を丸めたナッシュが叫ぶ。
幾重も傷をつけられた声帯から絞り出したような声だった。
そして、バネ仕掛けの人形みたいに勢いよく立ち上がり、真っ黒になった眼で俺を見据える。
「コロ、ス……リクド、必ズ……アァアアアアアアアアアア!」
ドクドクドクとナッシュの両腕に黒い血が流れる。
肘から手首へ。
そして握った剣に付着し──。
「うわ、グロ……」
ブリュンヒルデがつぶやく。
ナッシュの腕が、握っていた剣と融合したのだ。
そして剣を持たなかったほうの腕は手指が針のように一本となり、鋭く尖り、剣のような形を取り始める。
ブリュンヒルデと同じ双剣。
だがその姿は、あまりにも人間離れしたグロテスクなものだった。




