VS極拳のギール
(なにが、起こっている……?)
ギールは幼少から圧倒的だった。
目の前にいる敵はすべて屠ってきた。
まだガキの頃はさすがに殺せはしなかったが、相手を完膚なきまでに叩きのめした。
初めて人を殴り殺したのは冒険者になってしばらくしてからのことだ。
相手は野盗。
商人の馬車を襲っていた。
悪党に遠慮する必要はない。
命乞いすら暇すら与えなかった。
逃げたヤツは追って、森の中で殺した。
商人たちは感謝を示したが、その顔には怯えと媚びへつらう強張った笑みが張り付いていた。
これが、強いということだった。
相手に何もさせず、何かさせたところでビクともしない。
それこそが、強いということ。
全力なんて出したのはいつぶりになるだろうか。
感情のままに動いて、戦って、叩きのめして、殺して──。
ああ、そうだ。
全力を出したら殴り合う暇もなく相手が消し飛んでしまうから、止めたんだ。
だから、ギールにとっては記憶の彼方ですらありそうなほど、久しぶりだった。
解放された気分だった。
全身を使って、息が上がるほどの全力。
思う存分に拳を、蹴りを、頭突きを叩き込む。
頑丈で壊れないオモチャ。
どうせやがては壊れる。
だが一瞬でもいい。
全力が出せるのなら、それでも──。
(なにが、起こっている──)
一本の巨木がある。
ギールはそこに、手足を投げ出してもたれるように倒れていた。
視界が安定しない。
鉄さび臭い。血だ。血の匂いだ。
どこから? 自分の鼻からだ。
どうして? 殴られたからだ。
一発。
たった一発だった。
全力の攻撃を浴びせ、それでも死なないあいつに驚愕した刹那だった。
“目が合った”。
これまですべての生物は自分より下だと思っていたギールが、初めてギクリと動揺した。
それは一瞬だ。
時間にすればコンマ1秒にも満たない一瞬。
その間にリクドの腕が消え、気づいたときには衝撃とともに吹っ飛ばされていた。
「危険……だ……」
ギールは呟きながら、痙攣する筋肉を押さえつけて立ち上がる。
ゆらりと幽鬼のような動きで身体を左右に揺らし、そして──。
「お前のようなヤツは、存在していいはずがない……その強さは、人族のそれじゃない。まるで、まるで……」
ギールは大砲から射出された砲弾のように飛び出した。
誰も止めることができない、SSS級冒険者の砲弾。
「死ねぇえええっ!!」
これまで出したことのない咆哮。
決死の全力。生まれて初めての、本当の本気の死力を尽くした全力だった。
「悪い。俺はあんたを倒して、ヤツがいる場所へ行く」
リクドは弓を引くような格好で左腕を引いていた。
腰を落とし、迎撃体勢だ。
「あ……」
ギールの拳は紙一重でリクドの頬の横をすり抜けた。
代わりに、カウンターで射出されたリクドの拳が、ギールの顔面を打ち抜いた。
空気が揺れる。
凄まじい音がした。
ぐるりと半回転したギールが、勢いのままリクドの後方へ吹っ飛んでいく。
顔は完全に潰れていた。
決着だ。




