ギールの実力
「お前は強いはずだ。だから、最初から5割で行く」
言うと同時、ギールが視界から消えた。
刹那、眼前に現れたギールの右拳に頬をぶん殴られる。
「がっ……!?」
身体が浮いて、平原を転がる。
「耐えたか。頑丈だな」
「ぐっ!?」
立ち上がろうとしたところを再び急接近したギールに腹を蹴り上げられる。
再び身体が宙に浮いたところで、頭を掴まれ、思い切り顎を殴られた。
手が離れる。
「ぶっ!?」
無防備になった顔に、拳。
たたらを踏む。
「……すげぇ……」
俺は思わずつぶやいていた。
衝撃が来る。
強いかもしれないどころではない。
こいつは、ギールは──強い。
「……? 本当にずいぶんと頑丈だな……8割ぐらいで行くか」
「出し惜しみするなよ。全力で来い。ギール」
俺は言って、前蹴りを放つ。
「ぐぼっ?!」
つま先がみぞおちに突き刺さって、ギールは目を見開いた。
「かっ!? がっ……!」
ギールは後方に飛び退り、なんとかダメージを軽減したようだ。
そしてその顔は驚愕から、凄まじい笑みに変わる。
それは、嬉しいという笑顔ではなく、威嚇の笑みだった。
「悪かった。俺はまだ、お前を舐めていた。そうだな。全力だ。いいんだな? 全力で」
「ああ、俺は受け止めきれる」
ギールが腰を落とす。
顔から笑みが消える。
「ぬかせ。もうお前は死ぬ。俺の全力で、お前は死体も残らない」
ギールの気配が一瞬にして“無”になる。
目の前にいるのに、消え失せてしまったかのように錯覚させる。
「うわ……」
思わず声を漏らしたのはルカだった。
心底嫌そうな声をしているのがわかる。
これまでの圧倒的な存在感から一転、完全なる静寂。
「この姿を見て、生き残ったヤツはいない。礼を言っておく。全力を出すのは久しぶりだ」
ギールの存在がゆらゆらと掴めなくなっていく。
そして──。
「こっ……」
ギールの口から空気が漏れた。
その音が耳に届くかどうかという刹那。
蜃気楼のようだった存在が眼前に発生し、ギールの凄まじい攻撃が始まった。
拳。
蹴り。
突き。手刀。拳。拳。蹴り。
殴られ、蹴られ、斬られ、突かれた音が後から発生する。
速く、重く、鋭い。
無となり静寂となったギールに包まれているようだった。
四方八方から攻撃が飛んでくる。
休む暇もない。
傍から見れば、リクドが突っ立って時々揺れているだけに見えるだろう。
気配が極限まで薄いのに、その速度、攻撃はあまりにも苛烈だった。
極拳のギールの本領発揮だった。
リクドだから原型をとどめていられる。
この本気をもしもナッシュにでも使っていたら、今、そこに転がっていることも出来なかっただろう。
そう思わせるほどの凄まじいラッシュ。
「なぜ……! なぜだっ……!!」
だが──だがやはり。
「お前! なぜ死なない!?」
この凄まじく強い男ですら、魔王には及ばない。
「悪いな。俺は死なないし、あんたよりも強いみたいだ」
俺は、反撃を開始する。




